大型犬みたいな先輩は「待て」を聞かない

・作

大学時代、告白できないまま卒業してしまった2個上の先輩と居酒屋の前で偶然の再会。3年ぶりに会った先輩はあの頃と変わらず魅力的。並んで歩く帰り道、好きだったと告げてしまい、先輩の家へ連れられて。年上なのに大型犬みたいな懐っこい憧れの先輩に迫られたら、拒めるわけない…!

駅へ向かう赤ら顔の同僚たちが見えなくなるまで見送って、居酒屋の前のベンチに腰を下ろす。少し酔いを覚まして、ここから歩いて20分ほどの自宅へ帰るつもりだった。

「吉野?!」

名前を呼ばれて視線をやると、向かいの居酒屋からスーツ姿の男性たちと、同年代くらいの女性たちが出て来たところだった。声の主は結城先輩。私が大学時代に勇気が出ず告白できないまま卒業してしまったその人だった。

「結城先輩?!」
「おー、やっぱり!吉野だよな!久しぶり」

背が高い先輩は集団の中で頭一つ飛び出ていて、セットされた短い黒髪と形のいい額が印象的だ。歯を見せてニカッと笑う表情は人懐っこい大型犬みたいで、あの頃と変わっていなくてドキッとしてしまう。

「ごめん!俺この子と帰るわ。お疲れ~」

女性の1人が腕を組もうとしたのをやんわりかわした先輩が、こっちに近付いてくる。
 
「えっ」
「いいよな?…立てそ?」
「あ、ハイ…」

少し強引なところも変わってない。後ろからの野次を無視して、先輩は私の手をとって歩き始めた。

*****

先輩との出会いは大学に入学して早々、自分の目線くらいまで積み上がったテキストや資料を運んでいたとき、持つよ、と声をかけられたのがきっかけだった。お礼に持っていたチョコを渡したときの笑った顔が、年上なのに可愛くてキュンとしたのを覚えている。それから偶然にも、困っているところを何度か助けてもらう内、先輩の明るさや優しさに惹かれていった。

でも、先輩はいつも人に囲まれている人気者だったし、当時は連絡先を交換するのが精いっぱいで、それ以上は何のアクションも起こさなかった。友達にはご飯にでも誘ってみたら?と言われたけど、忙しそうだしなんて適当な理由を付けては逃げて。もちろん告白なんて夢のまた夢。

そんなだったから、今更先輩に会ったからって何があるわけじゃない。そう思っていたのに。

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