女神は今日も、深夜のコンビニへやって来る。 (Page 4)
キュウキュウと締め付けてくる女神の中へ、ありったけの欲を吐き出す。一滴残らず飲み干そうと絡みついてくるその熱に、絶頂感がいつまでも続いた。繋がったまま何度も口付けを繰り返して余韻を楽しんだあと、女神は僕に話しかけてきた。
「ねぇ、どうしてスケッチしたの?写真を撮らせてほしいって人は何人かいたけど、絵のモデルになったのは初めてだったわ」
「ぼ、僕、漫画家目指してて…編集の人に『魅力的な女性キャラを描けてない』って言われて、それで…」
「ふぅん…そうなんだ。すごいね、漫画家目指してるなんて」
「でも、なかなかうまくいかなくて…」
「どんなの描いてるの?見せてくれる?」
僕はタブレットを取り出して、以前描いた読み切り漫画を女神に見せた。
「へぇ…面白いよ。確かに女の子の描き方はちょっと下手かも。そうだ、私のこと漫画に描いてよ。実は私ね…」
女神は自分がどうして風俗嬢に堕ちたのかを語りだした。友人に連れられて行ったホストにハマり、貢ぐお金が尽きるとこの仕事を紹介されたという。推しのホストは引退したあと別の太客のヒモとなっていて、今更別の仕事も見つけられずズルズルと店を辞められない…と。正直、話自体は『よくある』ような話だった。でも、それが彼女の人生で、語りながらどこか遠くを見るような顔をして昔のことを思い返している様子は、胸を締め付けられた。
「どお?あなたの漫画家人生に貢献できそうかな」
「それは、そうですけど…。でも本当にいいんですか?描いちゃって」
「だーかーらー、いいって。…あ、店から電話だ」
終了時間間際だという連絡の電話だった。女神は身支度を整えると、去り際に「またね、漫画家さん」と言ってキスをして行ってしまった。
次の日から、女神はコンビニに来なくなってしまった。お店のサイトを見ると、女神の写真は無くなっていた。またね、と言ってたのに、もう会う手段がなくなってしまった。
僕は、女神が話してくれた身の上話を漫画にした。そのまま描くのは気が引けたので、多少脚色した。ラフ漫画をSNSに投稿すると、現代社会の闇を上手く創作に落とし込んでリアリティがある、と一部にウケてバズった。運良くとある出版社から声が掛かって、清書して読み切りを掲載してもらえることになった。読み切りは好評で、そこからとんとん拍子に連載が決まり、コンビニバイトも辞めてどうにか漫画一本で生活できるようになった。
女神はどこへ行ってしまったのだろう。会って感謝を伝えたい。もしかしたら、天界へ戻ってしまったのかな。でも、女神は…いや透子さんは、この現世に存在している。きっと、どこかで僕の漫画を読んでくれてるはず。あの日の彼女の感触を思い出しながら、新作のネームを描きすすめた。
Fin.
レビューを書く