可愛く甘えてきていたはずのワンコな後輩は実際手の付けられない猛獣だった

・作

私が教育担当をした3つ年下の梶野くんが、主任に就任。お祝いで飲みに行った帰りに土砂降りに見舞われる。びしょ濡れだからと送ってくれた彼が風邪をひかないよう強引に家に上げてしまったら何故か不機嫌で…柔らかい雰囲気しか見せてこなかった彼がまさかこんなに獰猛だったなんて知らない!

「梶野くん。主任就任おめでとう」
「藍沢課長!ありがとうございます」

ジョッキを合わせて早速料理に手をつける。

私の後輩で、教育担当を任された梶野くんはあっという間に仕事を吸収し、今日主任に就任した。
彼が入社してから5年、彼の頑張りに刺激されて私も負けてられないと頑張ってきた。

「プロジェクトも大成功だったし、今までの功績もあってこんなに早く主任だなんて、ほんと将来が楽しみだね」

「それもこれも皆と藍沢課長のおかげですよ!」
「梶野くんの頑張りがあってこそだよ。入社当初から人懐っこくて飲み込みも早かったけど、梶野くんは人に頼るのも指示するのもきちんとできてたしね。上もそういうとこすごく評価してるよ」

梶野くんは新卒で入社した当初から人気者だった。
少しのことじゃへこたれないどころか、もっと教えてとニコニコで食らいついてくるから、先輩上司も教育しがいがあると喜んでいた。

新入社員の教育も頭を悩ませるようになった昨今で、こんなことは珍しいし会社としてもとても嬉しいことだった。

「しかし、こんな甘えん坊な梶野くんが主任とはね〜、威厳みたいなのはないけど(笑)」
少しからかうとムッとする梶野くん。

「今に見てて下さいよ課長。あっという間に抜かして見せますから!」
「嬉しいね〜、期待してるよ。あ、そうだこれお祝いに」

私は鞄から包みを出して梶野くんに渡す。
ビックリした表情の梶野くんは、頭を下げながら受け取ってその場で開けてくれた。

「…!これ、カフスボタンじゃないですか!」
「梶野くん、タイピンとか見えにくいけどさり気ないとこにも気使ってるからね。気に入ってもらえると嬉しいな」

「すごいオシャレですねこれ。流石異例の早さで営業部の課長になった人だ…俺、ジャケットからたまに覗くカフスも買ってみたいなって…丁度思ってたんですよ」

黙り込んでしまった梶野くん…あれ、気に入らなかったかな。
私が慌てだした時。

「嬉しい…ありがとうございます!大事にします」

そこからは、つい先日大成功に終わったプロジェクトの事や、会社のあれこれ…会話にとにかく花が咲いた。
嬉しそうでよかったな、と私はホッと胸を撫で下ろした。

お店を出て駅まで梶野くんと向かっていると…
「ウソ!?」
「ここで雨…」

雨が降ってきた。しかも土砂降り。
幸い、2人ともお酒には強くて足元もしっかりしていたので、走って駅まで向かう。

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