罪づくりの皇妃殿下

・作

幼馴染のルークに恋心を寄せていたリリス。晴れて彼と結婚することができ、無事皇帝の座に就いたルークを支える后となった。しかし、そんなリリスに忍び寄るある男性の影が…。心は拒否してるのに、身体が反応してしまい、快楽の波に飲み込まれてゆくのであった。

「いやぁぁ!やめてっ!…んんっ、んぁ…やだ…」

「いやいや言ってるわりには、ここ、すごいトロけていますね」

私の脚の間から顔を上げたウィリアム様が、片眉を上げながら得意そうな表情を向けてくる。
恥ずかしくて顔を背けたいのに、彼の顔から目が離せない…。

薄くやや尖った唇は私の愛液でぬめり輝き、陶器のような真っ白な頬は赤みを帯びて、目は物欲しげに私を見つめていた。

ダメだと分かっている。
イヤだと心が拒否している。

それなのに、彼が私に触れ、耳元で囁かれるたびに身体は“もっと”と彼を求める。

逃げなきゃ…助けを求めなくては…。

でも、ウィリアム様に激しく突かれていると口から零れ出るのは助けを求める声ではなく、自分でも驚くほど甘美に満ちた声だった。
そんな私を見下ろすウィリアム様は、私の真っ白な脚を持ち上げて満足そうに微笑む。

「何度でも、気持ちよくして差し上げますから」

そう言い終わると、私に深い口づけをしながら力強く腰を打ち付けてくる。
下からこみ上げてくる刺激が全身を走り抜け、塞がれた口からは喘ぎ声しか出てこない。

ここだけだと、ただ愛し合う男女の姿に見えるだろう。
だけど、私とウィリアム様は何があっても絶対に…決して関係を持ってはいけない。

そんな罪にまみれた私たちを、カーテンの隙間から見える月だけが静かに見ていたのだった。

*****

私が暮らしているのはモルタブル王国。別名氷の国と呼ばれる大国で、他の国から羨ましがられるほど豊かな暮らしをしていた。
食料はもちろんだけど、国に住む全ての人々に満足のいく暮らしが約束され、貧困という言葉を聞くことがない。

こんな素晴らしい国を築き上げたのは今から3代前の皇帝で、政治のかじ取りをしようとする悪い考えを持つ他国を戦いで退けたのだ。
それから民の意見に時間をかけて耳を傾けたあと、国内の優秀な学者を集めて政治体制を整えた。

かなりかいつまんで話したけれど、その努力が今の豊かな国へと繋がっているのだ。

そして、私リリスはモルタブル王国の現皇帝であるルーク・クレアモントの妻である。

ルークと私は小さい頃からの幼馴染で、物心ついた時にはいつもルークが側にいるという感じだった。

ルークは幼い頃から次期皇帝になることで注目されていたけれど、ただそれだけじゃなくて、頭脳明晰なことでも周囲から一目置かれていたのだ。
常に冷静沈着で、物事をありとあらゆる方面から見ることができ、どんなことにも抜かりない。

そんな彼を周囲の人達は口をそろえて、歴代の皇帝にそっくりだと褒めたたえた。
私もいつの間にか彼のことを幼馴染としてだけではなく、一人の男性としてみるようになっていったのだ。

ルークの結婚は政治が絡むと思っていたので、隣国のお嬢様を妃として迎えるはず。
そう思った私は、ルークへの恋心を一生隠す決心をした…はずだったのに、私が20歳の誕生日を迎えた日に彼からプロポーズをされたのだ。

あまりにも突然の出来事に、私の脳内はショート寸前で本当に倒れそうなほど驚いた。

その場に崩れ落ちる私の手を優しく取りながら、優しく微笑む彼の顔が今でも忘れられない。
この世には私たちしかいないんじゃないかと思うくらいに、空気が止まっていた。

子供の頃から一緒に過ごしてきた私達だったけれど、夫婦になってからもそれは変わらず。
むしろ、より一緒に過ごす時間をつくるようにして、さらに濃厚な時間を育んでいた。

ただ…今思えばあの時が一番幸せだったんじゃないかと思うときもある。
純粋にお互いが好きで、夜の生活もすごく満たされていた。
肌と肌が触れ合い、相手の熱を感じる。自分が大切にされていると再認識する幸せな時間だったと思う。

でも今は、あの頃とは少し違った環境になってしまった。あの日の過ちによって…。
2人の間にあった無垢な世界はもうないのだった。

私の世界が変わったのは、初冬のある夜。

年に1回行われる、他国の皇帝や王が集まる定例会が開かれることに。
もちろんルークも参加をするので、10日ほど国を離れることとなった。

「10日も離れるとは…寂しいわ」

「今年はサンファポリス国で行われるからなぁ、こちらとは正反対の位置にあるから仕方ないんだよ」

だとしても遠すぎるなと苦笑いしながら身なりを整えるルーク。
私は準備を手伝っていた手を止め、彼の背中にそっと寄り添いながら別れを惜しんだ。

たった10日、されど10日…。
新婚である私達には果てしない時間のように感じる。

「リリス?困ったなぁ、こんな可愛いことされちゃますます行きたくなくなるよ」

「だって…寂しくて…」

私は駄々っ子のようにルークの背中に顔を押し付けていたが、ふと手首を掴まれ手前に引き寄せられる。
気づけば、私はいつの間にか振り向いたルークの腕の中だった。

そして、ルークは私に深くキスをしてきたのだ。
彼の熱い舌が私の口の中を隅々と探ってる。頭がぼうっとしてもう何も考えられなくなり、次第に腰に力が入らなくなる。

キスだけなのに、大事なところを触られているような気分にさえなってくるキスに、私の腰は浮かび上がりそうになっていた。

「リリスは何を考えているのかな?」

「なっ…!なんでもないわ!」

「本当に?さっきから腰が動いているのはどうしてかな?」

「…っ!動いてないもん」

「ふっ、リリスは可愛いな。はぁ~たった10日だけど、リリスも一緒に連れて行きたいよ」

「それは無理な話よ、遊びで行くんじゃないもの。私は大丈夫だから、気をつけて行ってきてね」

ルークは名残惜しそうに私の頭を撫で、最後におでこにキスを落とす。

残念だけど、夫婦としての時間はここまで。
出発の時間を知らせるために、第一騎士団のウィリアム様がルークを呼びに来てしまったから。

「失礼いたします。出発の準備が整いました」

「あぁ、わかった。それじゃあ、リリスのことは任せたよ」

うん?私のことは任せた??
ウィリアム様はルークと一緒には行かないの?

これまでは、いつでもどこでもウィリアム様はルークと共に各地を回ってきた。
剣の腕もたち、忖度なく意見を述べるウィリアム様の存在はルークの右腕でもある。

それなのに、どうして今回は私と共に城に残るのか謎だ。

眉間にシワを寄せて考える私の表情をすぐさま読んだルークが説明してくれる。

結婚後、初めて自分が城を空けることに心配だと悩むルークに、ウィリアム様の方から提案したのだという。
ルークに代わって、ウィリアム様が私の身の安全を守ることを。

「第一騎士団の団長だ。何かあっても絶対にウィリアムがリリスを守るだろう」

ルークはウィリアム様に頼んだぞと言い、皆が待つ広間へと向かった。

私も行かなくてはと歩みを進めようとした…その時。

「リリス様。ルーク様がご不在の間、何なりとお申し付けください」

「ありがとう、ウィリアム様。でも、侍女がいるので、身の回りで困ったことがあれば彼女たちに頼むから大丈夫よ」

「かしこまりました。では、また見回りの際に」

そう言って頭を下げるウィリアム様を見た侍女たちが、キャーキャー黄色い声を上げる。
いつ見てもカッコイイだとか、硬派な感じが素敵だとか…その他諸々。

ルークは誰もが認める美男子で、高身長に優しそうな柔らかい目元と清潔感のある口元。
私的には、深いネイビーの髪色が月夜の下で輝いているのを見るのが好きなのよね。

加えて、小さい頃からルークのことしか見てこなかった私は、ウィリアム様の存在は認識していたものの、特に何も感じていなかった。
だが、侍女たちが騒ぐ姿を見て、改めてウィリアム様を見てみる。

金色に輝く髪に、高身長でスラッとしながらも分厚い胸元。
ルークのような優しい目元には感じないが、涼しげで凛々しい目元は女性が虜になるのも納得かもしれない。

「リリス様?なにか御用でしょうか?」

やっちゃった!さすがにジッと見過ぎてしまったかもしれない!
ウィリアム様は私の言葉を待っているようだった。

「いえ…!」

慌てて何でもないと告げた後、私たちも広間へと向かう途中、ウィリアム様が小さい声で私に囁く。

「この時を待っていました」

この時とは何のことだろうか?
よくわからないけれど、彼の側にウィリアム様がいてくれてよかったと、私はただ思うのだった…。

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