推し変したらとんでもないことになった。 (Page 2)
「推しの幸せが私の幸せなんですよ?でも、素直に喜べないんです。祝ってあげたいのに、涙が…」
「ふぅ〜む、よっぽど好きだったんですね。ガチ恋勢ってヤツですか?喜べないのはお相手の方が一般人女性だからですか?」
店長さんは口髭をいじりながら、冗談っぽく言う。私はそれに冗談で返せなかった。店長さんの言うことが事実だからだ。
推しは握手会で私に微笑んで手をギュッと力強く握ってくれた。お相手の一般人女性は、それ以外にもたくさんの推しを摂取しているのかと思うとくだらない嫉妬心で苦しくなる。
「そんなに辛いなら、僕に『推し変』しませんか?」
「…へ?」
「僕なら、あなたのことを泣かせたりしません。きっと幸せにします。実はですね、僕はあなたを推してるんですよ」
頬張っていたアップルパイの味が急にわからなくなった。事態と口の中のものを飲み込むのに少し時間を要した。カップに残っていたダージリンを飲み干し、呼吸を整える。
「あ、あの…」
「端的に言います。あなたにガチ恋してるんです。ダメですか?」
手を取られ、甲に口付けられた。触れる口髭がくすぐったい。何するのよ!と引っ叩くところだけど、英国紳士のような振る舞いに胸がキュンとしてしまった。震える声で言い訳のような拒絶の言葉を絞り出す。
「ひ、人目もあるのに…!」
「ありませんよ。あなたが泣き出して他のお客様はみんな退店してしまいましたから、カーテンは全部閉めて入り口には閉店の札を掛けてます」
周りを見渡せば、本当に誰もいなかった。全く気づかなかった。
「どうです?推し変、しませんか?」
彼の唇は手の甲から指先へと移動する。そのまま私の指を咥えると、レロレロと舌先で舐め回してきた。
「ちょ、何してるんですか?!」
「何って、見た通りですよ?」
「それは、そうですけど…」
「ふふふ、嫌がらないんですか?」
突然の指フェラに戸惑いつつも体温が上がってきてしまった。ゾクゾクとして、手を引っ込められない。
いや、それより。彼の舌の感触が、歯ではない何か別の固いものが当たるような気がする。
「あの、何か口の中にあるんですか?」
「あぁ…これのことですか?」
彼は指フェラを中断し、口を大きく開けて私に見せつけてきた。下の真ん中に銀色の丸い物体が鎮座しているかのように存在していた。
「舌ピアス…?あなたみたいな人がしてるなんて意外です」
「そうですか?なら、こっちを見たらもっと驚きますかね」
彼はおもむろにシャツを脱ぐと、細マッチョな引き締まった身体が顕になった。そして、肩から背中、脇腹のあたりにトライバル柄の刺青が施されていた。
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