新人マネのお仕事は、彼専用の? (Page 5)
「…今度さ、共演するじゃん。アイドルの」
「ああ。花村華乃ちゃんのこと?」
今売れてるアイドルグループのセンターで、翼くんの次のドラマの相手役の名前だ。
恋愛モノで、翼くんと共演が決まったけど…。
彼女が、気に入らなかったんだろうか。
「イヤだったの?」
「だってさ。恋愛モノじゃん。台本読んだら…キスシーン、とかあるじゃん」
「…? うん、ある…ね?」
それがイヤなの? ん? 何か…引っかかる。
「だからつまり! 俺は、その。…イヤなの!わかってよ、菫さん!」
まくし立てるように、翼くんが言い放った。
…要するに、キスがイヤで機嫌が悪かった?
「わかった。キスはない方向で行けないか、制作側と話してみる」
「あ、ありがと。…お願い」
ちょっと照れたように、翼くんが言った。
その顔が可愛くて、ちょっと笑ってしまった。
「翼くんも、可愛いとこがあるのね」
そう言ってから、気づいてしまった。
さっき、引っかかったことに。
…あれ? 私には…キス、したよね?
翼くんを見ると、ドアの前でこっちを見てた。
「頼んだからね。ダメだったら、またお仕置きするよ? 菫さん」
「あ…うん」
何故か、素直にうなずいてしまった。
「はい、お利口さん。…菫さん。あなたは、俺専用のマネージャーだからね」
にっこり笑い、翼くんが出て行った。
「俺専用…」
翼くんの言葉を復唱する。
確かに今担当してるのは、翼くんだけ。
でも専用ってことは、他の人は担当するなってことなんだろうか。
「…でも…それもいい、かな」
自分で言って、ちょっと笑ってしまった。
そうだ。翼くんは私が見つけたんだから。
ずっと、翼くんと一緒にいよう。
お仕置きされても、イヤじゃない。
イヤなのは怒らせたり悲しませたりすること。
だって翼くんは、私が守るんだから。
「だから翼くんも、そばにいてね? 私の」
そっと、心の中だけで呟く。
─私専用の、アイドルさん。
Fin.
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