官能表現を手に入れたいある漫画家の話 (Page 2)

どんな作品を描こうかと、参考に成人向け漫画を何冊か買ってきて読んでみたのだが、あまりピンとこなかった。

「こんな感じかなぁ…」

独り言を言いながら、キャラクター設定やあらすじを箇条書きで文章とイラストに落とし込んでいく。

ヒロインは普通の子が良いのは鉄則だ。
OLにしよう。
相手役はそうなると、上司か取引先か…若社長なんて設定も良いかもしれない。

数日迷いながらなんとかあらすじと、キャラクター設定のラフなイラストをメールで高岡さんあてに送った。

その数時間後。またもや参考資料として購入していた成人向け漫画雑誌を家で読んでいた。

(過激からあまあままで、色々あるのねぇ)

少しばかり悶々とした気持ちを覚えていると、スマホが鳴った。

着信は高岡さんからだ。慌てて電話に出る。

「こんにちは!早速ですが、今お時間大丈夫ですか?」

電話の向こうで明るい声が響く。彼の背後からはザワザワとした喧騒が聞こえる。どうやら外にいるようだ。

「は、はい!大丈夫です!」

私は緊張してしまい、椅子の上で正座になりながら答える。

「良かった。今、宮地さんのアパートのすぐ下にいるので、伺いますね」

え?と私が返事をする間もなく通話は切れてしまった。
程なくしてチャイムが鳴り、慌てて玄関を開けるとそこに立っていたのは先日のスーツ姿よりは少しばかりカジュアルな服装をした高岡さんだった。青色のチェックのネクタイを締め、ブレザーを羽織っていた。

(うわあ〜やっぱりカッコいいなあ〜)

一瞬見とれたが、次の瞬間自分の格好が普段通りのTシャツにタオル地のショートパンツであることを思い出し、恥ずかしくなった。しかしそんな私のことは意に介さないようで、丁寧でありつつも有無を言わせない態度で高岡さんは接してきた。

「失礼してもよろしいですか?いただいたメールの件で」

「あ、はい。もちろん」

高岡さんは靴を脱いで部屋に上がると、部屋の中にあるクッションに遠慮なく座った。私はお茶を出しつつ、高岡さんの向かい側のソファに座る。

「拝見しましたあらすじですがね、もちろん一般的に受けそうな内容で悪くはないんです。ただ、私が期待していたのはもっと、感情の機微が伝わるものだったんです。最悪、挿入なんて無くても構わない。まあ、これはさすがに言い過ぎかもしれませんが…」

“挿入”なんてあられもない言葉に私は気恥ずかしくなったが、彼は特に気にしていないようだった。

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