色魔に取り憑かれた私の長い一日 (Page 4)

「リリー、あなた今朝どうしてあんなに弱ってたの?」

『うーん、実はねぇ…』

リリーの話はこうだった。

リリー達色魔は、本来は生身の女性に取り憑くのではなく、男性ターゲットの夢の中に現れては、対象が性的に喜ぶ夢を見せ、絶頂しそうになると、それを吸い取って養分にするのだそう。

ターゲットは定期的に変えた方が良い。何故なら特定の人物に長期間夢を見続けさせると、夢から覚めなくなってしまったり精神崩壊を引き起こしてしまうからだ。そういったことが多発すれば、人間側も色魔に対して警戒や対策をすることになってしまう。

それなのにリリーは、特に気に入った青年一人にしばらく取り憑いてしまった。結果的に青年は夢と現実の区別がつかなくなってしまい、その様子に危機感を抱いた家族から除霊師なる人物を呼ばれ、攻撃的な手段で除霊されてしまった。

その後しばらく彼を忘れられずに町をさまよった後、弱り果てたリリーを柚花がたまたま見つけた。

「ふーん」

あいづちをうった私の隣を、1人の青年が店舗脇の倉庫へ向かって通り過ぎた。

「あ、お疲れ様でーす」

「あ、塚原くん。お疲れ様」

私は軽く頭を下げた。ほんの数日前から夕方から夜にだけ品出しに入る若い男の子だ。確か大学生だったはず。

若い男の子、それも真面目な学生らしく染めていないきれいな黒髪とチャラさとは無縁なかわいらしさを持った人というのは珍しく、パートの女性スタッフ、つまりおばさま方からはとてもかわいがられている。

『嘘、うそうそうそ。ここにいたの!?』

リリーが私の肩の上で興奮して暴れている。

「ん?」

『あの子よあの子!私が気に入ってたの!柚花、あんたちょっと手伝いなさい』

「ちょっと待ってよ。まさか…」

『そのまさかよ!お礼はたっぷりしてあげるわ!』

私はリリーに引っ張られるように駆け出すと、塚原くんのいる倉庫へと向かった。

「あれ、どうしたんですか?帰ったんじゃ」

振り返った塚原くんとバッチリ目が合う。塚原くんはフラフラと私に引き寄せられる。私は思わず後ずさった。

「え、なんで…。ずっと夢の中で遭ってた人…?」

塚原くんは壁まで私に迫ってきた。つまりいわゆる壁ドンをしてきた。

(いや、それはリリーよ。私じゃなくて)

とは言えるはずもない。仕方なく塚原くんを見上げてみる。私とは10歳弱、店長とは20歳ほども違う。ハリのある肌、力強そうな腕。それなのに表情には余裕がなく、不安げでもある。

「あぁ、君…!会いたかった…」

塚原くんは私の両肩を掴むと、そのまま唇を合わせてきた。私は驚いて目を閉じる。舌を差し込まれ、口内をまさぐられた。塚原くんは驚くほど力強く私を抱きしめた。身体が熱くなってきて力が入らない。ようやく解放されると、脚が震えてその場に座り込んでしまった。

「あはっ、かわいい…」

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