生贄になった私ですが、二人の男性と結婚することになりました (Page 2)
「私、佳世子といいます。大したことできないけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ。私の名前は…」
青年が言いかけたとき、お堂の入り口から大きな声が聞こえた。
「兄貴、抜け駆けはないだろ!」
佳世子と同世代ほどに見える男が勢いよく入ってきた。
「俺だって旦那になるんだろ!話させてくれよ!」
「いきなり大声出すなよ、びっくりさせるだろ」
青年が眼鏡をかけ直して顔をしかめる。
「ご、ごめん…。俺、哲二っていいます」
若い男は佳世子に向き直ると軽く頭を下げた。
「自己紹介が遅れましたが、私は立樹(たつき)といいます」
「は、はい。よろしくお願いします…。あの、ところで…哲二さんの言ってた旦那ってどういう…?」
二人は顔を見合わせた。
「あぁ、申込みもせず言ったのは悪かったかな。実は、俺達と結婚してほしいんだ」
答えたのは哲二だった。
「俺”達”ってことは…」
「はい、私と哲二で、あなたと結婚させていただきたいのです」
今度は立樹が答えた。予想外のことに私の頭は真っ白になった。いきなり結婚というのもそうだが、相手が二人とは。
「この集落に住んでいる人間は片手ほどしかいません。若い女性に至っては誰もいないんです」
立樹が集落の現状を語る。私はその言葉よりも先程から鼻をくすぐる甘い香りが気になっていた。不思議と手先や足先がじんわりと温まるような、痺れるような感覚があった。
「ああ、香りが気になります?これは香木ですよ。この集落の収入源ですね。媚薬になるとか言って好事家が買いに来るんですよ」
「びやく…?」
聞き慣れない単語に戸惑っていると、立樹は優しく微笑んで説明してくれた。
「まぁ、簡単に言えば惚れやすくなるお香ですね。これを焚きながら男女が交わると、相思相愛になれるとか。夫婦の契りを結ぶときに使うんです」
「へぇー…」
あまりピンと来ないまま生返事をしていると、哲二の方が持っていた包からおにぎりを取り出して渡してきた。
「しばらく寝てたから腹も減ってるだろ?それ食べたら風呂にも入れてやるからさ」
言われるままにおにぎりを口に運ぶ。塩味がきいたお米は美味しかった。
「うまいか?」
哲二の言葉に素直にうなずき返すと、彼は嬉しそうに笑った。
「よかった。たくさん食べてくれよ。これからよろしくな、奥さん」
その笑顔を見ると、結婚も悪くないのではないかと思えた。
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それが数日前のできことだった。
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