セラピストに夫婦生活の相談をしていたはずなのですが (Page 2)

「あぁ、失礼。言い方がよくなかったですね」

東間は軽く頭を下げた。

「私の方こそ笑ってごめんなさい。なんだかおかしくなってしまって…」

笑った勢いなのか、ずっと誰とも会話していなかった寂しさからなのか、チカはそこから堰を切ったように喋り出した。夫との生活のこと、自分の性生活への不満など、今まで誰にも言えなかったことを吐き出すことができた。そうなってくると、チカは不思議なほどテンションが上がってきていた。

「色々話してくれて良かった。今日、最初に見た時には肩がガチガチに固まってましたもん」

「え、そうでした?」

東間は席を立つと、私の横の席に移動し、そっと私の肩に触れた。その手はじんわりと温かく、触られるだけでほぐれてしまいそうだった。

やがてその手は筋肉にそってゆっくりとマッサージを始めていた。

「カチカチですね。よっぽど緊張してたんでしょうね」

「すみません。最近ずっと凝っちゃってて…お上手ですね」

「いえいえ、きっと家でも気持ちが張り詰めてたんだと思いますよ。感じなきゃ、気持ちよくならなきゃ、なんて思ったら逆効果ですからね」

「ああ、それ。確かに思ってました」

「やっぱり。感じなきゃ、って考えるのって、心の奥では無理だと思ってる証拠ですからね。もっと力を抜いてくださいね」

考えていることと、無意識は別であると、いつだったかテレビでそんな話を聞いた覚えがある。深層心理とか、催眠とか、そういった話だったような。

私は優しい声に身体を預けると、なんだかふわふわした気持ちになった。

「色々考えるのは一旦やめて、頭をクリアにしましょうか。目を閉じてゆっくり呼吸してくださいね」

言われた通りにすると、ゆっくりと深呼吸をした。深く息をするたびに胸が上下するのを感じる。

「今は何も考えないでください。ただ、呼吸することだけに集中してください」

だんだんと頭がぼんやりしてきた。全身が温かいものに包まれているような感覚がある。まるで温泉に入っている時のような心地よさだ。

「リラックスできているみたいですね」

耳元で囁くように問われて、私はうっとりとした気分のまま小さく首を縦に振った。

「じゃあ、次は身体の力を抜きますよー」

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