ふしだらな条件
歓送迎会の真っ最中、訳あって酒を断った祐実の元に知らない番号から着信が鳴る。「それ、俺」ちょうど廊下で話していた後藤課長が祐実にそういって去って行く。その後、後藤課長から送られてきた写真を見て祐実は立ち尽くす。一次会の後、後藤課長に呼び出された祐実は、写真の削除を頼むと「ここでオナニーして」といわれ…。
祐実は、ノンアルのビールを飲みながら、中広間の座敷で盛り上がっているみんなを眺めていた。
「後藤課長は、こう見えて厳しいから覚悟しろ?辞めるなら今だぞー!」
中井課長は笑いながら、自分よりも若い後藤課長の背中を押している。
「中井課長の圧、ムカつきます」
穏やかな雰囲気に見える後藤課長からの意外な言葉に、ドッと笑いが起こった。
「中井課長の跡をちゃんと引継げるよう頑張るので、みなさんサポートよろしくお願いいたします」
「頼んだぞー!乾杯の音頭を…おい!もう飲んでるな?」
さらに盛り上がる歓送迎会の中、祐実は立ち上がると隣に座って酒を飲んでいる後輩に、トイレ行って来るね、と呟いた。
半年前まで酒に酔った祐実は、男性に迫っては飲み会をふたりで抜け、一夜限りの身体の関係を持っていた。
彼氏のナオユキたちとの飲み会で、祐実はナオユキの同僚のひとりと姿を消したあと、酒を断った。
祐実は健全に酔っているみんなを羨ましく見つめ、座敷を通り過ぎて入口に向かった。
『メッセージください』
手に持っているスマホの画面に表示されたメッセージを見て、祐実はため息をついた。
知らない名前のメッセージは、すべて半年前までの一夜を共にした男性たちからだった。
靴箱に入れた自分のパンプスを探していると、連続でスマホが震え、祐実は冷めた気分で画面をスクロールした。
『会いたい』
『1時間後に、送った地図の場所で待ってます』
祐実は、メッセージを無視しパンプスの中に足を滑り込ませ、廊下に出た。
「東さん、帰るの?」
「いえ…後藤課長、もう名前覚えて下さってるんですね」
後藤課長に声を掛けられ、祐実は作り笑いをしながら答えた。
そのとき、握っていた祐実のスマホが鳴り出した。
「どうぞ」
後藤課長は両手をポケットに入れ、その場から去ろうとした。
「知らない番号からで…」
「それ、俺」
振り返った後藤課長は、さっき冗談をいった人と思えないほど突き放した口調でいい、ポケットからスマホを出した。
祐実のほうに見せた画面には、『東ゆみ』という名前と番号が表示されている。
「仕事のグループで登録しといて」
後藤課長は着信を止めると、何もいわない祐実にじゃあ、といい中広間へ入って行った。
呆然としている祐実のスマホがまた震え、『写真が送られてきました』と表示され、慌てて画面を操作しアプリを立ち上げた。
写真には、虚ろな目をした祐実が振り返り、撮っている男性のであろう指を口の中に入れている姿が写っている。
喘ぎ声が聞こえてきそうな写真の下にメッセージが届いた。
『これも知らないんだ?』
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