お隣から聞こえてくるあの声の正体を知りたくて (Page 3)
「そうかい。それは残念だな。いつもうるさくしちゃってるから、ちょっとしたお詫びのつもりだったんだけど」
「あ、いや…全然…、私は別に…」
莉奈は先程の出来事を思い出して顔を赤くする。しかし徐々に好奇心が莉奈の頭を満たしていった。
「あ、あの!じゃあ良かったら、このカクテルを買ってもらえます?」
「うん、いいよ〜」
「ありがとうございます!」
男はそのまま缶を2本購入すると、カラフルな色のついた缶を莉奈に渡してきた。缶を持つ男の指は細長いが関節は節くれている。
二人で日の暮れた道を歩き始めた。
「昼間はうるさかったかなー?」
男がふと話し始めた。
「いや、違うんです!ちょっとよろけちゃって…。大きな音をさせて、こっちこそごめんなさい」
「ああ、そうなんだ。でもよく壁に服のすれる音が聞こえるから気にしてるのかな、とは思ってたよ」
莉奈はどきりとした。まさかそんな音まで聞こえていたとは。
「す、すいません…つい、気になっちゃって…」
莉奈は恥ずかしくなり俯きながら答えた。
「さっきから、何も謝ることないのに。癖なのかな?」
「う。そうかもしれませんね…」
「それは良くないと思うよ。しんどくなるよ。僕なんて仕事何も続かなかったけど、そっち方面だけは上手いって言われて、結局それで生きてるからねぇ」
「えぇっ!?えっと、じゃああの女性達って…」
「小声でね」
男が自身の唇に手を当てた。気づけばそこは莉奈達が住むアパートの前だった。
「気になるなら、うちに来てもいいよ」
男の穏やかな声に、莉奈はつい頷いてしまった。
*****
男の部屋は案外小奇麗に片付いていた。ローテーブルを挟んで2人は座る。男はさっそく一人で缶ビールを開けて口をつけている。
「あ、名乗ってなかったね。僕は木原。そう呼んでくれたらいいよ」
アルコールのせいか男、こと木原の声は少しかすれている。
「あ、はい…。私は中村です。よろしくお願いします」
「じゃあお近づきに乾杯しようか。もう飲んでるけど」
「あ、はい。かんぱい…」
2人は缶を軽くぶつけ合った。莉奈は二口ほどカクテルに口をつけると、意を決して口を開いた。
「えーと、木原さんは…その、商売でああいったことを?」
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