綺麗になったお前が悪い~高校時代の元カノ~ (Page 2)
「ちょっと、トイレー」
あかりはふらりと立ち上がり、席を後にする。あかりの周りにいた女たちは意地悪そうな顔を浮かべており、俺は心から女たちを軽蔑した。
(大丈夫かよ、あいつ…)
俺もまた立ち上がり、あかりの歩いていった方向に向かっていく。もう特に同窓会の席で話すこともなかったのだ。
「あ…」
トイレの手前で、体を壁に預けてなんとか立っているあかりが、俺に目を向けた。思わずぎくりとする。
「…大島さん、大丈夫?」
「…えへへ、大丈夫ー…ありがと。石野くん」
お互い、他人行儀な呼び名だった。あかりの旧姓の大島。俺の名字の石野。
「飲みすぎちゃったぁ…お酒、そんな強くないんだぁ」
「…そうなのか」
「えへへ」
10代の頃に付き合っていた俺たちは、アルコールに強いかどうかなんてお互い知りもしなかった。
彼女はしゃんと立ち上がろうとしたが、また壁に体をぶつける。俺はあかりの姿を見ていられず、彼女の腕をたまらず掴んでしまった。
見ていられるか、と衝動的に思った。
「え?石野くん?」
「行くぞ」
どうせ、こんな所にいても楽しいことなどない。
(少し喫茶店かどこかで水を飲ませて、休ませる)
酔っている状態の彼女を更に飲ませればつぶれる。まだ終電までは時間がある。俺たちは席には戻らず、そのまま外に出るためのエレベーターに乗った。1階のボタンを押す。
「…さとる」
俺は、エレベーターの壁に体を預けるあかりを振り返る。
エレベーター内には、俺とあかりしかいなかった。彼女の声に、俺は郷愁を覚えた。媚もなく、ぼーっとした声だったから、“あかり“らしさを感じてしまった。
(…どうして)
ただ名前を呼ばれただけなのに、俺はどうしようもない情動に駆られた。それは10年前の思い出による幻想に過ぎないのかもしれない。ただ俺も酔っていたのかもしれない。
言い訳は、いくらでも思いつく。
俺があかりの手を引っ張り、足早にエレベーターから出るのには十分すぎるほど。
「…行くぞっ」
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