イケメンホストが私に本気で種付けしてきました
弁護士としてバリバリ働くアラサーキャリアウーマンの神宮寺アサヒ。男日照りの続くアサヒを見兼ねた女友達が、彼女を強引に高級ホストクラブに連れていく。そこで出会った見た目も中身も完璧なホスト・ナナセ。関係を持つなんてあり得ないと思っていたアサヒだったが、ナナセの甘い毒には逆らえず…
「とにかく、自分で生きていく力を身につけなさい」
この言葉を何度母親から言われたか分からない。私が幼稚園の頃、交通事故で亡くなってしまった父親。
それ以降、母はがむしゃらに働き女手ひとつで私を法曹コースの大学まで出してくれた。
私も、期待に応えたくて必死だった。周囲が青春だ色恋だのと騒いでいる時期も、私はただ一心不乱に机にかじりついて勉強した。
その甲斐あって、私の現在の職業は弁護士。文字通り血の滲むような思いをして、ここまでやってきた。
正直、この世界は精神的に辛いことも多く、やりがいよりもやりきれなさの方が勝る。
だけど、このまま堅実にコツコツと生きていけば、私の将来は約束されているも同然。
母にだって、苦労かけた分たくさん親孝行できる。
今は無理でもいつか個人事務所を立ち上げて、貯金通帳の額をもっともっと増やしてやるんだから。
今後の人生設計について熱く語る私を、綾子は冷ややかな目で見つめながら溜息を吐く。
彼女は私の古くからの友人で、何でも話せるいわば親友。この世界に入り信頼関係というものの脆さを嫌というほど教えられても、彼女だけは心から信用できる大切な存在だ。
小洒落たバーのカウンター席に腰掛け、長い脚を組み替える仕草は正に魔性の女。私と違って彼女は、昔からよくモテた。
「あんた美人なのにそんなことばっかり言ってるから、男に敬遠されるんじゃない」
「いいよ別に。男なんていらない。あんな信用できない存在」
「損得で考えちゃダメだって。何だかんだ、女の幸せに男は不可欠なんだから」
「幸せに必要なのは金と保険よ」
「アサヒ…」
何その哀れみの目は。私は何も、間違ったことなんて言ってない。
「あんたは偉いし立派だけど、昔から頑張りすぎなんだって。いつか壊れちゃわないか、私は心配なの」
「綾子がいてくれるから大丈夫」
「友達と男は別物でしょ?男でしか満たされないものもあるって」
「それってセックス?あんなの、気持ちいいのは男だけよ」
「それはアンタが、適当に初めてを捨てちゃったからでしょ?しかもそれ以降、誰ともしてない」
「必要ないからね」
「身も心も蕩けるような体験、してみたくない?」
「ない。性は身を滅ぼすの」
「もうアサヒ、仕事は一旦忘れなよ」
呆れたように、綾子はまた溜息を吐く。わかってる、彼女は私を心配してくれてるんだって。
仕事ひと筋、ろくに男性経験もないまま女盛りの二十代を終えようとしている私を。
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