ベルサイユの君に恋してる~男装カフェの最推し~ (Page 2)
ルイくんは、まりにとっての太陽だった。
初めて出会ったのは1年前。友達に話のネタに…とお店に連れて行かれて、まりはルイくんに一目惚れしたのだ。
優しくて、綺麗で、本当に王子様のような存在がそこにいると思った。
ルイくんは、カフェに行けば会うことができた。お金を払えば。
ルイくんは、一緒に写真を撮ることだってできる。お金を払えば。
ルイくんは、SNSや配信で日々見ることができる。これは無料だ。
まりが会社に勤めて得たお金は全てルイくんの元へ行くための資金となり、上司に理不尽なことを言われたらトイレでこっそりお店で買ったチェキを見て、休みの土日は必ずルイくんに会いに行って癒やされた。
「『まりちゃん、可愛い名前だね。君はお姫様だよ』って···最高だよ。本当、最高···」
「回想でもしてるの?今日で卒業するんでしょ、あなたの王子様は」
「…ぁぁぁぁ!!もう死にたい死にたい死にたいっ!!ルイくんがいないなら、もう生きる糧失った!もう仕事しても意味がないのよっ!!」
同僚の高瀬ヒナは、冷たい視線をまりに向けた。
今日は男装カフェ「ベルサイユ」でルイくんが卒業する日。まりは花束を持ち、大人気だったルイくんに卒業の花束を渡す客達の列に並んだ。先頭でルイくんは微笑んで、メンバーカラーの黄色の花束を受け取る。
(ああ、ルイくん。握手しか許されないなんて…!)
最後にルイくんの卒業を惜しみ、泣いて抱きつこうとしている客もいるが、ルイくんの隣にはスタッフがいてすぐに阻止している。
まりは、ルイくんが好きな身として、節度あるファンでいたい。男装カフェ卒業でもう会えなくなるルイくんにまりも何をしでかすかわからないから、同僚のヒナに付き合ってもらっているのだ。
突然1ヶ月前に男装カフェ卒業の告知が出ていて、絶望した。
本気で好きだった。いつもみたくこのおしゃれなカフェでチェキを撮る時のように胸が弾めばいいのに、まりの心には空虚な絶望しかない。
「あっ、まりちゃん!やっぱり来てくれたんだね!」
「る、ルイく…卒業なんてかなし…でも…おめでとぅ」
「ありがとう、まりちゃん」
まりの順番になり、ルイくんはさすがに週3は通っているまりの顔を覚えていてくれた。すすんでまりの黄色の薔薇の花束を受け取る。
すっと差し出される手に、まりは掴むのを躊躇した。
ヒナが、まり、と声をかけてくれなきゃ、最後の握手さえできなかっただろう。
(えっ)
握手をした瞬間、ルイくんの手からまりの手に何かが手渡された。ぎゅっと握ってくれる手と、彼の青いカラコンが入った目を見て、まりは胸がざわつくのを感じ取った。
ルイくんの唇が、その時、”またね”と動いていた。
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