色恋沙汰はご法度 (Page 3)
「申し訳ありませんでした!」
梨子が仕事をボイコットしたとの連絡。大なり小なりどんな仕事でもやり通してきた梨子が。
「何で出ねえ」
バンッ!思わずテーブルを叩いた俺に、驚かれようが素の俺が出ようが構ってられねえ。
「…?」
「榊さん…落ち着いて」
ふっと香るきつい香水と猫なで声で、テーブルで握る拳に重なる、手入れが行き届いたキラキラした指先。
「彼女、恋してるのかも知れません」
「…え?」
「…だって急に、大切なお仕事もせずに、連絡も取れないなんて…体を張ったりするお仕事でしょう?男性に嫌だとか言われたからなんじゃ…」
「だから…」と、今度は重ねていただけの指を絡めてきた。
「もう梨子さんはやめて、考えてくださらない?私のマネージャーに…」
「!…あなたに梨子の何が分かる?少なくとも俺が必要なんですよ」
本当は何も言わず振り払ってもよかったが、この女もまだこれからもっと様々なことに挑戦して、時にはウザがられて成長するはずだ。
「ただこれだけは言っておく。むやみやたらに男の手を取るもんじゃねぇ…では、失礼します」
店を飛び出ると同時に会社から連絡が入った。梨子が直接、プロデューサーを初め関係者一人一人に、一人で謝罪をしたらしい。
それを見ていた大御所が間に取り入って一緒に謝ってくれたと。なぜ庇ってくれたのか後に聞けば、言い訳を一切しなかったからだ、と。
「今回は何とかなったものの…」
徹底的に話をしなければならないようだ。俺から逃げられると思うなよ?梨子。
*****
「そう、怯えるな。取って食ったりしねえよ。何か飲むか?」
「お、お水…榊さん私ここに居ても…」
「どういう意味だ?…ほら水」
受け取ったはいいが一向に口にはせず俯いたまま。やっと語った内容に唖然とする。
「何だそれ。俺とあのいけすかねえ女が見合い?」
ビクッと肩を強ばらせた梨子は一気に水を飲み干す。まあまあな情報通の営業が話をしていたのを偶然聞いたらしい。
「ほう…?てことは梨子」
「…」
軽く音を立ててグラスを置くと、隣でゴクリと唾を飲む音が聞こえる。
「頑張ってる梨子の…期待に応えてやんねえとな?」
梨子をソファーへ押し倒す。俺を見上げる眼差しは揺れて今にも泣きそうだ。
「怖いか?俺が」
フルフルと横に顔を振る梨子の唇に触れる。
「そんなに強く噛むな」
「…!」
親指で下唇を開き唇を押し付ける。少し乾燥した唇が梨子らしく、愛おしい。
「フッ…ッ…」
俺の背中で戸惑っていた梨子の腕がやっと落ち着き俺を包む。
「それでいい。俺を、お前にくれてやる」
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