色恋沙汰はご法度 (Page 2)
梨子、職業バラドル。
大人しそうな見た目に反して、どちらかと言うと体を張り可愛がられている。
梨子と知り合ったのは、俺の前の担当コンビが、学園祭でライブを行った時。梨子はその時の窓口担当だった。
落ち着いてよく気が利き淡々と仕事をこなす。だが冷めた印象は与えず周りから頼られていた。
ライブで、ゲームに参加する学生たちを前もって募っていた。その中に2、3人女子も欲しいと伝えていたが、盛り上がり客も増えると怖気付いて出てこない。
そんな時だ。
私が!と勢いよく出て来たのが梨子で。後で知ったが、梨子はコンビのファンだったらしく、優勝賞品が勝てたら2人が何でも言うことを聞いてくれる、というものだった。
その時のコンビ2人の喜びようは半端なかった。楽屋で梨子に幾度か話を振っても楽しそうではなく、お笑い自体がそう好きではないのかと心配していたからだ。
そしてなんと優勝。何を言うのか、今か今かと期待に満ち溢れる会場、息を飲む…意を決して発した言葉は…
「コンビに挟まれ写真を撮りたい!サインが欲しい!」
そんなこと〜!と思わずコンビも拍子抜け。また会場が笑いに包まれる。
洋服着替える?と1人が聞いた。大丈夫です、これが皆さんと一緒に楽しんだ証なので。と満面な笑みでコンビに向き合う梨子に心を撃ち抜かれた。
牛乳3本一気飲み。コンビが笑わせ、それで洋服に零し汚れようと、吹き出し顔が汚れようと、最後までゲームをやり切った。
そして現在、梨子はコンビの妹的存在で芸能界入り。で、俺が今担当のマネージャーとなった。
*****
「何言ってる?仕事を受けたくないだと?てめえ、いつからそんなに偉くなった?」
初めてだ、梨子が仕事を拒むのは。そう嫌いな内容でもなく、大先輩の胸も借り成長出来るいいチャンス。俺は喜ぶとさえ思っていた。
「訳を言え、それで俺が納得出来たら考えてやる」
「私…」
コンコン…!
(榊さん、いる?)
「チッ…は、はいどうぞ。…あ、どうもお世話になります」
(こんな所まで来やがって)
プロデューサーと共にやってきたのは、現在売り出し中の女優でいい所のお嬢様らしいが、男に媚びているのが見え見えでいけすかねえ。が、プロデューサーの機嫌を損なうのも本意ではない。
「外に行きますか?」
女優がそうしましょうと、取ってつけた顔も気に食わない。梨子ぐらいがちょうどいい…と梨子を見れば…
「…」
ほんの一瞬だったが、何か思いつめたような、それでいて我慢している梨子から目が逸らせない。
「梨子…?」
「榊さん?」
「…あ、今行きます。…梨子、さっきの話もう一度よく考えろ」
ドアを閉める瞬間にはもう、梨子とは目が合わなかった。
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