彼女とうまくいっていない先輩を誘惑してみたら、甘々の一夜を過ごすことになって…
サークルの飲み会の最中、ため息交じりに落ち込んでいる市村先輩に私は声をかけた。どうやら彼女に浮気を疑われているらしい。「じゃあ、わたしと本当に浮気すれば」酔った勢いに任せて先輩を連れ出し、ホテルに連れ込んだ、までは良かったのだが…
「あー、めんどくせぇ…」
市村先輩が小さく呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
顔を見るとスマホをみながら眉間に皺を一瞬寄せた。
「えー?どうかしたんですか?先輩」
私は酔ったふりをして先輩へ近づき、スマホの画面をみた。
『飲み会って本当?信じられない』
アイコンは彼女のレナ先輩だ。
市村先輩とレナ先輩は私がこのサークルに入った当初から公認のカップルだった。
レナ先輩は市村先輩の一つ年上で、去年卒業して大企業のOLになったらしい。
「うわ…レナ先輩怒ってますね」
「結由(ゆゆ)からも言ってくれよ。本当に飲み会だって」
「先輩、浮気でもしたんですか?じゃないと、こんな疑われ方します?」
「してない。してないけど…」
「けど?」
「ここだけの話…してもいいか?」
周囲はガヤガヤと盛り上がっていて、私たちの内緒話など耳に入らないみたいだ。
私はウンウンとうなづき先輩の口元へと耳を寄せた。
「レナの友達からアピールされてること、言わなかったんだ。そしたらその子と何かやましいことあるんじゃないかって疑い始めて…そっからはもう、何言っても信じられないって…」
レナ先輩は、なんていうか普通の女の子だ。
市村先輩みたいな人気者が彼氏だと、一度疑い始めたら止まらなくなる。
同じく普通な私には容易に理解できた。
「先輩、なんで言わなかったんですか?アピールされてるって」
「正直、気持ちを聞くまで気づかなかったんだ…俺はただレナの友達だからと思って仲良くしてたのに。そしたら、好きだって言われて…」
私はわざとらしくため息をついた。
「先輩が人たらしなのは知ってますけど…きっと、その人アピールを受け入れてもらえたって思ったんでしょうね」
「…俺に思わせぶりされたってレナに言ったみたいでさ…俺は信頼と実績を打ち砕かれたってわけ」
先輩が眉を下げ、情けない表情でおちこんでいる。
「あはは(笑)ヨシヨシ」
「なに笑って…こちとら真面目に困ってるんですけど?」
「困ってる…じゃあ、」
今度は先輩の耳元で囁いた。
「私と…本当に浮気しませんか?」
一瞬固まった先輩が、私のおでこを突きながら笑った。
「からかってるだろ、やめい」
「からかってないです。どうせ疑われてるんなら、浮気しちゃえばいい、でしょ?」
私は先輩の目をじっと見つめて真剣に言う。
酔ってる勢いはたしかにあるけど、冗談なんかじゃない。
私がこのサークルに入ったのはキャンパスで見かけた市村先輩にひとめぼれしたからだった。
カップルだと知り、あっけなく失恋した後もまだ想いは心の奥底にくすぶっていたのだろう。
チャンスだって、思ってしまった。
「ぷはっ(笑)今日の結由、面白いね」
先輩がくしゃくしゃと私の髪を乱す。
「もう、本気なのにな…」
先輩はあくまで冗談みたいに笑っているけど、動揺しているのがわかる。
私は先輩の手を掴み、テーブルの下で指を絡めた。
「面白いですか?じゃあもっと楽しいこと…したくないですか?」
*****
そのまま私たちは会を抜け出し、勢いに任せラブホテルへ入った。
そこまでは良かった。
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