暗闇の中を照らすふたり~デイブと里奈~

・作

里奈はマンツーマンレッスンの英会話スクールに通っている。レッスン中、突然、部屋が真っ暗に。震える里奈をイギリス人講師のデイブが抱き締める。「里奈、キスしてもいい?」流暢(りゅうちょう)な日本語で話し掛け、スマホのライトとペットボトルで誰も居なくなった暗闇の教室を灯す。初体験を思い出す痛みと痺れる快感に大胆になっていく。

突然、真っ暗になった部屋で、里奈はテーブルの下にうずくまった。

英語と日本語が入り混じる大きな声が四方から聞こえている。

「Are you OK?(大丈夫?)」「えー何なに?停電?!」「What’s happened?(何があったんだ?)」「ちょっと怖いんだけど!」

目を開けても、閉じても暗闇。

「大丈夫?里奈…」

温かく大きな身体が里奈を包み込んだ。

「日本語…デイブ話せるの?」

「黙ってたけど話せるよ。多分、停電だよ。大丈夫だから」

暗闇の中で、流暢に日本語を話すイギリス人講師のデイブの声は、違う男性のようだった。

デイブの身体から柑橘系の香りがし、里奈の鼻をくすぐる。

「ありがとう。私、暗闇が怖くて…デイブ、もう少し、このままでいいかな?」

デイブは大きな手で里奈の背中をゆっくりと擦りながら、顔をコクコクと動かし頷いた。

(あれ?あんなにいた人達の声…)

「他の人達は…居ないのかな?」

「居ないと思うよ。男性スタッフの誰かが『階段で出ましょう』っていってたの、里奈聞こえなかった?」

「え?そうだったの?」

「非常時のマニュアルがあるから、スタッフが非常階段に案内したんだと思う。誰も居ないと思うけど、見てこようか?」

デイブが身体から離れようとすると、里奈は必死で抱き付いた。

「ごめんデイブ、行かないで。本当に怖いの」

「分かった」

デイブの身体が、里奈の身体を包み込む。

(心配掛けちゃったな…。明るくなったら食事に誘おうかな…)

「ねぇデイブ、お礼に…」

「里奈…キスしてもいい?」

耳元で囁くデイブの吐息に、里奈は敏感に反応した。

デイブは、スマホを取り出し、眩しく光るライトを照らすと、その上にミネラルウォーターを置いた。

ふたりの周りに間接照明のような明るさが包み、里奈は驚いて後退りした。

「ビックリした?」

「…うん」

「どっちに驚いたの?」

「え?」

「明るくなったこと?キスしたいっていったこと?」

いつも冗談をいい笑いながら英語を教えるデイブと別人に見えた。

ブロンドの髪、エメラルドグリーンの瞳、薄っすらと光る顔の産毛。

うつむいているブロンドの睫毛をしたデイブの顔は、桜色に変わっていた。

うっとりと見とれていた里奈の頬と耳を、デイブの厚い手が優しく撫でる。

里奈の唇から吐息が漏れ、ふたりは視線を合わせた。

「キスしていいってこと?」

「ぁぁっ…うん…」

里奈の甘い息を塞ぐように、デイブは優しくキスをした。

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