今日、終電逃しました
終電を逃した、と言っておれの家へ転がり込んできたのは友人の莉子だった。どうもだいぶ酔っているようで、とりあえず適当に寝かしつけ、おれも寝るために風呂へ入ろうとしたが、なぜだか莉子までついてきてしまった。二人きり、狭いバスルーム、何も起こらないはずがなく…。
「終電を逃してしまいました」
「なるほどね」
深夜0時過ぎに部屋の扉をノックしてきたのは、友人の莉子だった。
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「うわっ、おまえ酒くさいけど」
千鳥足の莉子を、カバーを新調したばかりのローソファへなんとか座らせる。
「同窓会でした……」
「へー……。水いる?」
「いらないれす」
「富士の天然水だけど」
「……」
「バナジウムの天然水もあるけど」
ソファの背もたれに顔を押し付け、莉子は人間語ではない言葉を唸る。
おれはサイドボードに水の入ったペットボトルを置いて、大っぴらに脚を開く莉子の膝に綿毛布を掛けた。
「眠いの?」
「うん……」
鼻から長くため息を吐く。
「風呂は?入れる?髪、煙臭くなってて嫌だろうし、化粧も落としたいだろ」
肩を叩くが、莉子の返事はない。
「吐きそう?」
静かに莉子が首を振る。
「そ。吐くときはゴミ箱だと助かるけど、間に合わなそうなら、……このビニールか、フローリングの上でいいから」
莉子の隣にコンビニのビニール袋を口を広げて置く。
「もーおれは風呂入ってくるから、ベッド使って寝てていいよ。水は飲めよ」
カールの取れかけた莉子の髪をくしゃっと撫でる。
綿毛布を鼻先まで引っ張ってソファの上で身体を丸めたまま、くぐもった声で、はぁいと莉子が返事をした。
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