一夜のあやまちは画面の向こうに (Page 2)
「んんっ!?」
頬に手が添えられる。
「ね?」
行きずりの、名前しか知らない相手の顔が近付いてくる。
私は、私はその接近に一度顔を背けて、そして、自分からキスをした。
「あ…」
ケン君の頬が染まる。
私の口の中に唇が侵入してくる。
深いキスを交わし、そして手がお互いの体をまさぐる。
服をさっさと脱がし合い、裸になった胸に大きな手の平が這う。
「ん…」
すぐに立ち上がった胸をケン君は口に含んだ。
わざといやらしい音を立てて私の胸を口の中で転がす。
じわじわと下半身が濡れていく。
私も手を伸ばす。ケン君の下半身はすっかり硬くなっていた。
それに両手を添える。
根元から先っぽまで、擦ってあげれば、どんどんと手の中で反り返っていく。
「元気ね、若い子は」
「翠さん、そんな年上に見えないよ」
「お世辞をどうも」
どう見ても二十代そこそこの彼に苦笑する。
「…ケン君って、成人してるよね?」
慌てて尋ねる。条例に引っかかるのはごめんだ。
「してるよ。じゃなきゃバーになんて通わないって。そんなに若く見えた?」
クスリと笑いながら、ケン君は胸を揉んでいた手を、私の下半身に差し向けた。
手からスルリとケン君自身が抜けて、そして私の下半身がすっかり濡れていることを確認すると、ゴムを被せて、私の中に入ってきた。
ゴムをつけてくれる誠実さに、ホッとする。
別になくてもいいか、くらい投げやりにはなっていたけれど、行きずりの関係だけど、それでも丁寧に扱われていることにホッとする。
痛みと感情が混ぜこぜになって、涙が浮かんだ。
「…大丈夫?」
ケン君が困ったように見下ろしてくる。
「だ、大丈夫」
「そう、奥、突くよ」
こくりとうなずけば、ケン君のが私の奥をガッと突いた。
「あっ!」
体が快楽にのけぞる。
容赦のない責めが私の体を襲う。
「あっ!やっ!すごっ!」
若さとは激しさなのか。
暴れる私の体を優しく抱き締め、口をキスでふさぐ。
私の腰もケン君を求めるように動き出す。
「んっ…んんー!」
ジュルッと唾液を吸い取りながら、口が離れる。
「…いこうか」
「うん…」
ひときわ鋭く貫かれ、私は意識を失った。
「んー…」
朝、起きたらケン君はもういなかった。
サイドボードにメモが残っている。
『ホテル代は払っておいたのでゆっくりどうぞ』
それだけ。
二日酔いの頭を抱えてなんとなくいつもの習慣でテレビをつけた。
「…あ」
朝の情報番組、ドラマの告知に生放送で出ている俳優が、昨夜私の体を好き勝手した彼だった。
「あはは…」
見覚えがあったのも無理もない。売れっ子芸能人。
だからこれは一夜の過ち、なかったことになること。
そう思いながら、せめての思い出にメモを取り上げると、裏に何か書かれてた。
「ん…?」
めくる。そこには英数字の羅列と『メッセージアプリのIDです』と書かれていた。
「……」
少し迷ってから、私はそれを登録した。
一夜の過ちが、一夜の過ちだけで終わらないような、そんな予感がした。
Fin.
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