覗き穴の劣情

・作

ぼくには秘密の習慣ができた。ある日たまたま見かけた隣家の庭で行われていた性交を目撃したぼくは、それから毎日隣家の様子を覗き見るようになった。今日ももちろん楽しみに見ていたぼくだが、今までと違い今日は度肝を抜かれることになる。服を脱いだ彼女は、縄で縛られていた。

これが習慣になったのはいつからだっただろう。

 

ぼくはベランダにスツールを持ち出し、空を眺めていた。

陽が傾き始め、赤く染まった空の向こうに、夜が忍び寄ってきている。

このまま待っていれば、幾千と輝く宝石の入った宝箱をひっくり返したような夜景が、このベランダから一望できる。

そうならどんなに美しい写真が撮れたことだろう。

いや、数年前まではできたのだ。それが目的でこの家を買ったのだから。

数年前までは。

数年前ぼくの家の前に、なんとかかんとかといった有名な写真家だかなんだかが、別荘を建てた。

ギリシャ建築のような、真っ白い漆喰の壁。空を映したような、青いレンガの屋根。城を思わせる広いバルコニー……。

そう、いかにもな別荘をだ。

その別荘が邪魔でお目当の夜景が一切、見られなくなってしまった。夜景どころか、昼間の風景ですら。

初めの頃こそ、訴えてやろうかとも思ったが、どこに持ちかければいいかわからなかったし、第一、ぼくにそんな度胸はなかった。

今でも見るたびに反吐が出そうになる。悪趣味な外観だ。まるでラブホテルのようだろう?

別荘の漆喰に影が落ちだす。

……そろそろかな。

ぼくは手持ちの一眼レフを構えた。

反吐が出るのは変わらない。が、新しい楽しみを見つけた。

この時間帯だ。

別荘の庭先にピントを合わせる。

カメラは庭に出てきた2人の男女を捉えた。

今日も出てきた、と思わずぼくはほくそ笑んだ。

 

気がついたのは4日ほど前のことだ。

やけに外が喧しかったのを覚えている。

見ると、若い男がまだ大学生くらいの女を連れて別荘に入っていくところが見えた。

……はー、結構なことで。

と、そのときはそれだけで、特に興味も湧かなかったのだが、あまりに笑い声がうるさいもので、ぼくはベランダから別荘の様子を盗み見た。

このとき、下心がなかったと言ったら嘘になる。

声のする方を見ていたら、予想外の、ある意味では期待通りのことが行われていたのだ。

庭先とはいえ、野外で彼らはまぐわい始めた。

驚いたぼくは、逃げるように部屋に戻り、ベッドの中で一発抜いた。

それからは一日中そのことをもんもんと考えてしまい、情けないことに眠ることもままならなくなってしまった。

笑い声が聞こえるたび、否応なしにそわそわしてしまうのだ。

自分の中でけじめをつけるため、を言い訳にある日ぼくは、日の入りから没するまでベランダに張り付いて彼らの動向を窺った。

どうやらあの男は、その少女の写真を撮ることが目的のようで、撮影は必ず庭で行われ、その際少女は必ず衣服を剥かれ、やがては必ず性的行為に発展し、そのたびにぼくは自分で息子を慰めた。

それがこの暗くなりだす日の落ち始めた時間帯だった、というわけだ。

他人の性交を盗み見るというスリルは、ぼくを虜にするのに十分だった。

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