ツンデレメイドちゃんとムッツリ紳士さん
古い洋館には、メイドさんが一人だけ。有能で冷静、ほとんど笑顔を見せない美しいアミティアと、その主人ルイズ。掴みどころがなくヘラヘラとしているルイズは、今日もアミティアから冷徹な瞳を向けられる。しかし彼女には、ルイズしか知らない別の一面があるのだった。
小さな古びた洋館には、三十代半ばの男が一人で暮らしている。そしてそこには、もう何年も仕えているメイドが一人。男はそのメイドを溺愛していたが、彼女はそれをいつも凍てつく瞳で一蹴していたのだった。
「アミティア、アミティアはいるかい?」
「御用でしょうか、ルイズ様」
ルイズと呼ばれた男は長い脚を優雅に組み、年季の入ったデスクの上にこれでもかというほど書類を山積みにしていた。
そしてその横のゴミ箱には、クシャクシャに丸められた紙が溢れている。
「インクが切れてしまったんだ。新しいものを用意してくれないか」
「ルイズ様」
アミティアは透き通ったブルーの瞳を真っ直ぐにルイズへと向けた。
「こちらをお使いください」
彼女が差し出したのは、使い心地のよさそうな一本のペン。
「インクがなくても使えます」
「僕はこっちがいいんだよ」
「そんなもの時代錯誤もいいところです。今時、インクを探すのにも苦労するくらい」
「しかしだね、アミティア」
「ルイズ様の仰りたいことはわかりますが、仕事の書類は量が多すぎます。滲んだり破れたりすればまた一からとなってしまいますし、使い分ければいいのです」
「使い分ける?」
ルイズは、年の割に随分と若見栄する風貌だった。茶色がかった瞳はまん丸で、いつだって少年のような輝きを放っていた。
「私用の手紙は万年筆、量を書かねばならないときはペン。こうすれば効率もよく折角書いた書物をまた一からやり直し、なんてことも少なくなるかと」
最も、技術の進んだ昨今ではそもそも手書きというものが既に古いのだが。それでもアミティアは、そうした「昔の味」を重んじる古臭いルイズの性格が嫌いではなかった。
「やっぱりアミティアは天才だね。仕事の効率も考えつつ僕の思いも尊重してくれる。君のようなメイドは世界中探してもいないよ」
「私のような平凡な女など、そこら中に転がっています」
アミティアの言葉に悲しそうな顔をして、ルイズは椅子から立ち上がる。白と黒のシンプルなメイド服に身を包んだ華奢な体を優しく抱き締めた。
「君はそんなことばかり言うんだから。いつも言っているだろう?僕には君しかいない。アミティアがいるからこそ、僕は地に足をつけ生きていくことができるのだと」
「ルイズ様」
アミティアの表情は寸分も変わらない。まるでフランス人形のように整った顔立ちと真っ白い肌。澄んだ瞳からはちっとも感情が読み取れない。
だがルイズは、そんなアミティアを心から愛しく思っていた。
冷静沈着、感情を表に出さず汗一つかかない。周囲から「血の通っていない人形のよう」と気味悪がられようと、そんなことはどうだっていい。
ルイズには、アミティアが本当は自分のことを思いやってくれている心根の優しい娘だとわかっていたからだ。
彼女を理解できるのはこの世でただ一人、自分だけでいいのだと。
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