美人女教師の秘密 ―脅迫に感じる体― (Page 2)

「香坂先生」

ガタッ。

「何してるんですか?先生」

放課後の、誰もいないはずの教室。薄暗い中で私は、動揺を隠しながら背後に立つ人物に顔を向けた。

「朝井先生」

魔が差してしまった。いつもならこんなこと、絶対にしないのに。さっきみた悠二君の笑顔が頭から離れなくて、気付けば足は彼の教室に向かっていて。

悠二君の机。思わずそこに手を伸ばして、頬を寄せてしまった。我ながら、なんて馬鹿なこと。

「香坂先生はうちのクラスと何の関係もありませんよね?」

たった一度の過ち、まさかそれを同僚の朝井先生に見られてしまうなんて。

やっぱり、神様なんていない。

「ごめんなさい、何でもないんです」

朝井先生は、とても優秀な教師だ。柔和で生徒受けもよく、紺色のスリムスーツが綺麗な顔立ちによく似合っている。

「そんな言い訳が通用しないことくらい、香坂先生が一番わかっていますよね?」

「…」

何も答えない私に、朝井先生は冷たい笑顔を浮かべる。

「そうですか、香坂先生は瀬川君のことが好きなんですね。生徒である以前に、彼はあなたのいとこなのに」

「っ」

この人は、すべて知っている。この場を早く去りたいのに、射抜くような視線から目を逸らせなかった。

「どうしようかなぁ、これ」

朝井先生の胸ポケットから取り出されたスマホ。校内での使用は教師であろうと校則違反だと口にする前に見せられた画像に、私はもう何も言えなかった。そこに写る、悠二君の机に頬を寄せる私の表情を見れば、言い逃れなんて無意味だった。

「いつも涼しい顔してるくせに、本当は身内に欲情してる変態だったんですね」

教室の端、カーテンに隠れるようにして朝井先生は私を追い詰める。耳元でそう囁かれて、私は力なく顔を背けた。

「いくらいとこといえど、教師が倫理的にどうなんですか?バレたらただじゃ済みませんよね、香坂先生?」

「瀬川君とは、本当になにもないんです。ただ私が一方的に思っているだけで、彼とどうにかなることなんて絶対にありません」

「だとしてもそれを誰が信じてくれます?この画像と俺の証言があれば、二人揃って非難されるのは目に見えてる」

二人揃って。そう言われればもう、私は言いなりになるしかないんだ。

「いいですね、その顔。普段澄ました綺麗な顔が、泣きそうに歪んでる。こんな最高なことってあります?」

目の前の悪魔は、こんな時でも端正な顔立ちを崩さない。その精巧さが、今は恐ろしく見えた。

満足そうに喉を鳴らした後、朝井先生は私の耳朶を一回甘噛みする。急な刺激に、思わず手で跳ね除けた。

「わかってないなぁ、香坂先生…は!」

少し苛立ったようにそう呟いて、今度はさっきの何倍も強く耳朶を噛まれる。

「痛…っ!」

「大人しくしてれば、気持ちいいことしかしませんから。第一、あなたには抵抗するなんて選択肢、ありませんよ?」

…泣かない、絶対に。逆らえないとわかりながら、私は彼を睨みつけながら下唇をきつく噛み締めた。

「…それでこそ、苛め甲斐がありますよ。香坂先生」

嬉しそうに言いながら、朝井先生は私の体に手を這わせたのだった。

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