美人女教師の秘密 ―脅迫に感じる体―
香坂美月は、私立男子高の女教師。美人だが厳しく近寄り難い、と生徒からは敬遠されていた。そんな毎日の中で、彼女の唯一の秘密を真面目で評判のいい同僚教師・朝井に知られてしまい…初めは嫌々だった彼の気持ちよすぎる悪戯に、美月は逆らえなくなっていく。
「先生、さようなら」
「さようなら」
私の横を通り過ぎていく男子生徒たちに、挨拶を返す。
「マジで綺麗だよな、香坂先生って」
「でもキツくね?俺パス」
「バッカ、見た目だけの話だって」
男子高校生の内緒話ほど、無意味なものはない。それとも最初から、声を抑えるつもりなんてないのか。
職員室への道すがら、私は今日何度目になるかわからない溜息を吐いたのだった。
私立男子高の、自他共に認める綺麗な女教師。
そう言えば聞こえはいいけど、実際男子高でよかったと思うことなんて一つもない。
思春期特有の気持ち悪い下ネタ、ニヤニヤした視線。夏になってちょっと薄手の服を着ようものなら、学年主任に注意される。
教え甲斐もないし、私を頼りにしてくるような可愛げもない。若い女だからというだけで、初めから舐めてかかるクソ生意気なガキ。
もちろん真面目で接しやすい生徒もいるけど、比較的偏差値の低いこの高校ではそんな生徒は圧倒的に少ない。
現国教師になって一年目はオドオドしていた私も、五年目の今となってはすっかり「怖くて堅物の女教師」と言われるようになった。
本当の私とは、違う。だけどこの方が、圧倒的に仕事がやりやすかった。
「美月ちゃん!」
不意に背後から呼ばれて、振り返る。私を学校でそう呼ぶのは、たった一人しかいない。
「瀬川君」
目が合うと、人懐っこい笑顔を見せる瀬川悠二君。今年入学した一年生で、私のいとこだ。
「美月ちゃん」
ニコニコしながら、もう一度私の名前を呼ぶ。
「もう、学校では先生だって言ってるのに」
口頭では注意しても、内心は嬉しかった。
「そうだった。へへ、ごめんね」
あぁ、なんて可愛いんだろう。悠二君がここに入学すると聞いた時、神様っているんだと本気で思った。
私と十歳違いのいとこは、私の好きな人。
もうずっと、前から。
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