雨の日の足音 (Page 5)
後ろから、彼が髪を鼻でかき分け、耳たぶを口に含みなぞりあげると、歯を立てた。
「あぁッ…!」
チリチリとした痛みに体を震わせ、思わず声を発すると、彼はそのまま興奮して膨張した杭を私の入り口にあてがい、ゆっくりと中へ押し進める。
苦しいような、切ないような気持ちが胸あたりまでゾワゾワとこみ上げ、より一層私は言葉にならない声をあげた。
彼はそれに応えるように、ゆっくりと腰の律動を激しくし、私の首筋、肩と舌を這わせて、そして肩甲骨にたどり着いた時に、再度思い切り歯を立てた。
「あぁ、ダメッ」
痛くて身をよじりたいのに、与えられる快感に支配され、私はむず痒い、変な感覚に陥っていた。
まるで僕のものだと、僕のことを忘れないでと言わんばかりに彼は腰を打ちつけながら、次々と刻印を刻む。
私は、彼から与えられる快感に悶え、既に足はガクガクと震えていた。
そのまま力なくベッドにずるりと倒れ込むと、彼は後ろから覆いかぶさりながら、律動を止めずに揺さぶる。
「気持ちいい、気持ちいいよ、どうしようッあぁ…!」
気持ちのよいところをえぐり、えぐられる行為は、お互いの理性を溶かしていく。
声が枯れるくらい喉を酷使した頃、くぐもった声を出して、彼は私の中に果てた。
そして力強く私を抱きしめ、小さく消えそうな声でアキ、と私の名を呼んだのだ。
私が彼の声を聞いたのは、それが最初で最後だった。
彼がいなくなった日々は、心にぽっかりと穴があいたようだった。
あの、彼が泣きそうな目をして私を抱いた日の夜、シトシトと雨のふる中、彼は私の気づかぬうちにまた外へとふらりと消えていった。
最初はすぐに戻って来るだろうと思っていたが、あれから数ヶ月が経つ。
猫は自分の死期を悟ると、姿を消すと言うが、彼はこの世を去ったのだろうか?
そして今日は、彼がいなくなった日と同じように、憂鬱な雨の一日だった。
ぼんやりと窓の向こうに見える景色を眺めていると、最愛の彼が命を落とした、交差点の道路が目に映った。
雨に濡れるアスファルトと、揺れる水溜り。
雨が少しずつ強くなり、雨戸を締めようと窓により近づくと、ぼんやりと、その交差点に1人の青年が見えたのだ。
雨で白む視界に、その黒い髪をした青年は凛と佇んでいた。
私はなぜか一歩も体を動かせずにいた。
雨で視界が悪いのに、私に見える光景は、茶色の深い色の目が、とても穏やかで安らかな目をして微笑んでいる姿なのだ。
温かい、幸せな気持ちが込み上げてきて、頬には知らないうちに涙が連なっては伝った。
そして、彼はくるりと体の向きを変えると、黒猫の姿になり、しなやかな体で雨の中をゆっくりと歩いていったのだ。
暗く、黒い、夜の雨の中に溶け込むように。
Fin.
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