サレ妻とサレ夫が離婚お疲れさまパーティーをしてみたら…

・作

私は夫に不倫をされたいわゆるサレ妻。半年間の憎しみ合いと争いに終止符が打たれ、晴れて独身に戻った記念すべき日に、共に戦った同志のサレ夫と飲んで、意気投合した私たちはラブホテルへ向かう。そこで思いがけないふたりとばったり会ってしまい、月明かりの下のジェットバスでパーティーは加速していって…

「紺野先生、本当にありがとうございました。先生がいなかったら、私、娘の親権も取られて、無一文で放り出されていたと思います」

「朋美さん、先生って呼ぶの、止めてくれないかな」

仕立ての良いスーツをビシッと着こなす敏腕弁護士の紺野さんは、その外見からは想像できないくらいに、気さくな人だ。

今日、すべての手続きを終え、離婚届を提出してきた。

長い半年間だった。

始まりは、バイトの大学生との仲を疑われ、突然夫に離婚を切り出されたことだった。

娘が幼稚園に入園し、コンビニのパートを始めた矢先のことだ。

全くの濡れ衣なのに、捏造されたらしき証拠写真まで用意されていて不審に思い、夫の行動をチェックしてみたら、職場の既婚の派遣社員と不倫関係にあることが発覚した。

夫が不倫相手との連絡に使っていたチャットアプリが、日中家に置いてある夫のPCと同期していたので、ネットの情報を参考に、GPSを使って行動を追跡し、現場を押さえた。

その後は、紺野さんに交渉を任せ、ほぼ希望どおりの条件で離婚することができた。

「本当に、紺野先生のお陰です。光輝さんも、松原先生を紹介してもらって、ものすごく喜んでました。松原先生にもよろしくお伝えください」

光輝さんは、夫の不倫相手の夫で、私がサレ妻なら、光輝さんはサレ夫ということになる。

ひとりで鬱々と証拠集めをしている頃に、どこで調べたのか、私のパート先に訪ねてきて以来 、秘密裡に連絡を取り合って情報交換し、励まし合ってきた。

不倫の現場を押さえた後、いい弁護士がいたら紹介してほしいと言われ、紺野先生に大学の後輩である松原先生を紹介してもらった。

「え?松原ほど、先生って呼ばれるのが似合わないヤツ、なかなかいませんよね」

松原さんとは面識はなかったけど、光輝さんによると、小動物っぽい可愛らしい外見に似合わず攻めの交渉をする人で、思い悩むタイプの光輝さんをぐいぐいとリードして、私たちより先に離婚を成立させたなかなかのやり手だ。

「また何か力になれることがあったら、遠慮なく相談してくださいね」

紺野さんと握手をして、事務所をあとにした。

*****

「光輝さん、痩せた?」

「いや、なかなか体重が戻らないだけ」

光輝さんは、紺野先生の事務所からほど近い和食の店で、私を待っていた。

光輝さんと会うのは、不倫現場を押さえた日以来初めてだった。

あの日から、食事を受けつけなかったり、戻してしまうのが続いていて、ずっと心配していた。

「今日娘さんは?」

「実家の母が見てる」

「そっか。じゃあ乾杯しよう。朋美さんも晴れて独身ってことで、離婚お疲れさま」

衝立で仕切られた横並びの席に座り、ビールのグラスを合わせる。

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