喰い付くケダモノ。

・作

アキはイマイチ何を考えているのかわかりにくい年上の幼馴染みのユウに、何故か乱暴にベッドに押し倒されてしまう。明らかに不機嫌そうなユウは、そのまま「仕置き」と称してアキを乱暴に抱く。そんな行為にアキは不本意ながら感じてしまって…

「きゃんっ…」

 強めに肩を押されしたたかに体を打ち付けたと思ったのに、思ったより衝撃が少なかったのは投げ出された先がベッドだったからだ。

 アキの身体をベッドに押しやったのは、6つ程年上の幼なじみであるユウだ。
 ユウの暮らす2LDKのマンションの寝室に置かれたセミダブルサイズのベッドは、アキが普段寝ている量販店で買った木製のシングルベッドとマットレスよりだいぶ質が良く、ふかっと反発してアキの体を容易に受け入れた。
 
 大きな音だって響くこともなく、ただ小さく、マットレス内のスプリングが軋む鈍い音が耳に触れた程度だった。

「は、大げさな悲鳴あげんなよ、大したことしてねえだろ」

 黎利な闇を湛えた目を細めてユウが浅く笑った。元々目に見える感情の起伏の少ない男だ。そんな彼が滲ませる笑いは、アキのことを小馬鹿にしたような、だけど狼が獲物を追い詰める享楽を得ているような、なんとも言えない底意地の悪さを感じる。

 確かに、ちょっと大袈裟だったと思う。

 185cmを超す高身長に、がっちりとした肩幅や引き締まって肌の上からでも筋肉の凹凸が確認できるほどの逞しい肉体美をいつも暗い色の服の下に隠しているいかにも【猛獣】といった風体の彼が出したのだと考えるにはあまりにも弱い力で、ベッドに向かって押されただけ。

 いかにアキが女性としても小柄な部類に入る体格であろうとも、大きな声を上げて倒れ込むほどでは、どう考えてもなかった。

 ユウはそういう、強い雄としての力の使い所を見誤るようなタイプでもない。自分が強いことを幼い頃から重々承知しているからコントロールだってお手の物だった。

 アキ自身もそれがわかっているから、今のは自分の被害者意識が強く出たような感じがして、今の悲鳴については訂正したかった。

「…うるさい。大したことじゃなくても女の子にこんな乱暴はたらくなんてサイッテー。非モテゴリラ!」
「非モテゴリラはてめぇもだろ」

 眼の前の男に屈服するのが嫌で、きゃんきゃんとわめきたてるアキの声をさも煩そうに聞き流しながら、ユウはグレーのワイシャツからワインレッドのネクタイを引き抜いた。

「非モテゴリラのメスガキのくせに一丁前に色気づいてんじゃねぇよ」

 ギ、と再びベッドのスプリングが軋む。今度はユウがアキのついた尻もちの傍らに膝をついてベッドに乗り上げたからだ。

「何怒ってんのよ」
 アキの大きくくりくりとした、でも気が強そうに目尻のつり上がっている瞳が、こちらに近づけられてまじまじと表情を覗き込む男の顔を訝しげに睨んだ。
 一応身を守ろうと胸元に引き寄せたふかふかの羽毛枕で身体を隠すように抱きしめる。

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