普段は見せない甘い顔

・作

普段は上司で年上の彼女、梨都にもてあそばれてばかりいる、こう。普段の生活でも性生活でも常に優位に立てないでいた。それはそれで、と甘んじていたものの、お酒を飲んでみれば梨都の強気な態度は一変、いつもなら絶対にありえないほど甘えてきて……。

「こう~」

酒臭い。重い。

でもそんなのどうでもよくなるくらいに、可愛い。

今僕の部屋でぐでんぐでんに酔っぱらい、僕に思いきり抱きついてきているのは、同じ会社の一つ年上の先輩だ。先輩と言っても、ただの会社の上司部下の関係じゃなくて、恋人。

付き合いは会社に入るよりずっと前から続いているけど、入社してから僕は彼女を先輩と呼ぶようになった。

会社内では面倒を避けるため付き合っているのを隠していて、その癖から僕は私生活でも彼女のことを先輩と呼んで、敬語を使うようになった。

そうしようとは彼女と話し合って決めて、僕に対する態度も少しそっけないようなそんな感じになって。

でも仕方ないよなあと受け入れていた。だからしばらく僕のことも名前で呼ばれたことはなかったのだけど。

「何ですか、先輩」

抱き締め返しながら、体の柔らかさにどきどきする。

別に今までそういう関係を持ったことがなかったわけではない。むしろどちらかの家に泊まりでデートするときは毎回そうなっていて、何度も体を重ねたことはあるのだけど。

「ひ、……ッ、あ……っも、やめ……!」

「入れてる側のくせに何情けない声出してんの」

とまあいつもそんな感じである。

思い出すだけで大変恥ずかしいのだが、僕は先輩から主導権を奪えた試しがない。

僕はどうも普通より感じやすい体質らしく、それを知った初めてのときから、先輩からいいようにもてあそばれてきた。

それはそれで気持ちいいからいいのだけど、でも一度くらい彼女の優位に立ちたいと思ったりもするわけで。

 

ここで冒頭に戻る。

実は先輩はそんなにお酒を飲んでいない。三パーセント程度の弱いお酒を半分ほど飲んだだけだ。

それでこんなになっているということは、相当お酒に弱かったのだろう。今まで一緒にお酒を飲む機会がなかったから知らなかった。

ぎゅ、と強く抱き締められて頭をぐりぐりと押し付けられる。甘えられているのがわかってどうしようもなく愛しく感じる。

頭を撫でると赤く染まった顔を上げてぼんやりと潤んだ目で僕を見て、

「ちゅーして」

僕は、その一言で思考停止する。

今まで先輩からこんなに明確に甘えられたことなんてなかった。

お酒って怖い。……じゃなくて、

「……は、い」

いつも以上に緊張しながら先輩の唇にキスを落とす。

触れ合った瞬間、先輩はするりと舌を滑り込ませて口の中をまさぐる。けどいつもの勢いはなくて、普段なら僕が息を乱しているところなのに、今日は逆に僕が先輩の舌を吸って、歯列をなぞる。

「……ん、ふ……ぅ」

喘いでいる。

あの先輩が。

興奮して、そのまま押し倒す。クッションにぼす、と倒れ込んだ衝撃で少し覚醒したのか、先輩は目を瞬かせている。

それでもまだどこか目の焦点が合っていない。「うー……?」と状況がわかっていないような声が可愛くて、また口を塞いだ。

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