全部、淫鬱な雨のせい
歯科衛生士の仁美は患者の怜とセフレになる。甘え上手でちょっとサディストな彼。大学生とは思えない色気とテクニックに仁美は翻弄される。体も心もどっぷりハマってしまった仁美だが、最近怜の関心が自分から離れていることに気づいていた…。年下男子に翻弄される恋は、今夜も雨模様。
「ねぇ、今夜泊まってく?」
私がそう聞くと、怜は顔だけ窓の方に向けてカーテンの隙間に目を細めた。
急に降り出した雨が、窓ガラスに丸い足跡を付けていく。
月を覆い隠す分厚い雨雲のせいで、夜がいっそう暗く感じた。
「雨、強くなりそうだね」
「あぁ…」
怜は気のない返事をした。
きっと頭の中を占めているのは、ついさっきまで貪っていた私のカラダではなく、マンションの駐車場に停めた大型バイクのことだろう。
私は床に散らばった服の中からブルーのショーツをつまみ上げた。
2時間前に垂れ流した愛液がいやらしい光沢を放っている。
ゆっくりと足を通す。
湿った淫らな感触が、太ももの内側をねっとりと舐めていった。
「駐車場の屋根、もう直ってるから大丈夫だよ」
最後に彼がこの部屋にきたのは半年前。
まだ蝉がうるさく鳴いていた。
駐車場の破損した屋根の割れ目からは真夏の太陽が射し込んでいて、怜は傷だらけの原付バイクを大事そうに停めていた。
私は横目でチラリと彼を見た。
「どうする?」
怜は前髪を鬱陶しそうにかき上げて、
「じゃあ、泊まってくよ」
と視線を窓に向けたまま言った。
私もカーテンの隙間に目をやった。
あの原付バイクはどうして捨てられてしまったのだろか。
いつ乗り飽きてしまったのだろうか。
雨がさっきより強い音を立てて降り始めた。
*****
私たちがセフレになって2年が経つ。
怜は私が勤務する歯科クリニックに歯列矯正の患者としてやってきた。
ジーンズにTシャツという大学生らしいラフな服装も、長い手足と小さな顔のおかげで人目を引いた。
怜は月初めの水曜日にやってくる。
18:30の最終処置枠。
医師の診察の合間に彼の歯を磨き上げるのが私の仕事だ。
歯科衛生士は他に数名在籍していたが、彼が予約をする時間帯は対応できる衛生士が私しかおらず、そのうち世間話をする仲になっていった。
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