拝啓 愛しの痴漢様 (Page 4)

仕掛けた。…私に、触れたくなるように。

あなたはまんまと乗ってくれた。なのに、最後まではしない。

私は全部許しているのに。

挿れてくれればいいのに。

吐き出してくれればいいのに。

発覚して。全部、失えばいいのに。

痕跡が残ってないか床のほうに目をやると、ロングスカートの裾に少しだけ精液が張り付いていた。

裾をたくし上げ、指先で精液を拭いとる。

そうしてそれを、口の中に入れた。

舌先で精液を絡め取り、舌で転がして味わう。

ねばつく、生臭い体液。体が熱くなる。

「…いつか…」

そうとだけ呟き、あとは心の中で続ける。

いつか。きっと。

あなたは全てを求めてくる。そうして、全てを失うのよ。

そうしたらね、葛西さん。あなたを私のものにしてあげる。

犯してあげる。奪ってあげる。何もかも全部、愛してあげる。

もうすぐよ、もうすぐ。

私は精液を飲み下し、薄く笑った。

この味も、温もりも、全部。全部、私のものなんだから。

あなたのことを一番知ってるのは私なんだから。

もっとも、あなたは私の名前も知らないでしょうけど。

けれどもうすぐ、知ることになるの。あなたが私のものになったときにね。

私の葛西さん。恋しいあなた。…あなたは、私の。

八時十五分。ドアが開いた。私も降車客の流れに加わる。

車内に、呟きだけを残して。

「──愛しの、痴漢様」

Fin.

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