左手の薬指からはじまるイケナイこと

・作

専業主婦のマユミは退屈な毎日に嫌気がさしていた。ある日前職の子犬系後輩から相談があると言われ飲みに行くと…?左手の薬指からはじまる、ちょっと意地悪な年下くんとのイケナイこと。ダメだと思えば思うほど、もっともっと欲しくなる…!

「結婚したらさ、会社辞めていいよ。ちょっと休憩しな。大丈夫だって!」
キョウスケの、私を安心させようと無理に作り込んだ笑顔を思い出して思わず笑みが溢れる。

5年勤めた会社を辞めてから今月で7ヶ月。

小さい頃から憧れていた『大好きな人のお嫁さん』という夢を叶え、尊敬する母と同じように専業主婦になった。

理想通りの人生。
最初はそう思っていた。
もしかすると、そう思い込もうと努めていただけなのかも知れない。

マユミは最近溜息ばかりついてしまう自分に嫌気がさしていた。

新卒で入った不動産の会社は、覚えることも多く、令和とは思えない古い文化に面食らうこともあったが、営業として結果を残せていたこともあり充実した毎日を過ごせていた。
周りからの半端ないプレッシャーに負け、体調を崩してメンタルもボロボロになってしまった最後の方を除けば、きっと誰からも羨まれるキラキラした女性営業だったのだろう。

皆に惜しまれながら退職したあの日、私は新しい人生の門出でもあるその日を愛おしく感じていたのに。

夫のキョウスケは、学生時代からの仲で、付き合って4年記念日に入籍をした。

中高が同じ学校で大学は別々だったが、社会人になって東京で再会したのが私達のきっかけだった。
地方出身の私達にとって、お互いはかけがえのない仲間で、仲が深まるのにそう時間はかからなかった。

恋人関係になった後もそれぞれ一生懸命仕事に打ち込んで、どんなに忙しくても週に1回は待ち合わせて、キンキンに冷えた生ビールで乾杯し自分たちを労った。

そしてほろ酔いになった後、どちらともなく指を絡ませて、見つめ合ってはじまるセックスが最高に気持ちよかった。
キョウスケが汗を滴らせながら私を気持ちよくしてくれて、私の愛でキョウスケも声が抑えられない程によがって果ててくれるのが本当に最高だった。

なんだろう。
あの頃は仕事も恋も外方(そっぽ)を向かず正面から向き合って、ちゃんと没頭していたから楽しかったし、だからこそ相手も受け入れてくれて私に向き合ってくれていたんだろうな。
1日は忙しすぎてあっという間だったけれど、そんな自分がキラキラしていて誇らしかったな。

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