7年目の逃避行 (Page 5)
陵治は瞳を抱き上げたまま、バスローブの紐を解いて脱がし、抱いたまま泡で揺れるバスタブに身体を沈めた。
「瞳…初めて?」
「え?…」
「さっきの…」
「何か違和感があったけど、気持ち良かったよ?」
瞳は赤くした顔を泡で隠した。
「恥ずかしいかなって目隠ししたけど…気持ち良さそうな瞳の顔、ちゃんと見たかった」
照れくさそうに笑うと、陵治は瞳の身体を引き寄せて後ろから抱きしめた。
「初めてがいっぱいで嬉しい」
陵治は、瞳を抱き上げたときに手にしたカミソリをバスタブの下から出した。
「私にさせて」
「いいよ」
陵治は、バスタブの泡を顔につけると、瞳が手際よく無精ひげを剃っていった。
「学生の頃みたい…」
瞳が目に涙を溜めて呟くと、陵治は身体を強く引き寄せて抱きしめ、色がついた湯と泡が音を立ててバスタブから溢れた。
「ちゃんと謝ってなかった…苦しい思いさせて、本当にごめん」
「陵治が悪いんじゃないから、謝らないで」
陵治は腕を緩めて身体を少し離すと、目を涙でにじませて、瞳の顔を両手で包み込んだ。
「夢じゃないよな?俺の目の前に、ちゃんと瞳がいるよな?」
「陵治が触ってるのは、私だよ。ずっと離れないから」
ふたりは、ゆっくりとお互いの顔を眺めて、優しく唇を重ね合うと、陵治は瞳の身体を愛撫した。
「あァ…陵治…」
「はぁあ…痛くない?」
ふたりはバスルームでお互いの身体を鏡で映しながら、飽きることなく愛し合った。
*****
瞳の手を取って手を繋いだまま、ふたりは空港のターミナルを歩いていた。
「目立つよ…」
「知るか…嫌だったらいいよ」
陵治が手を離そうとすると瞳が握り返して、チケットに印刷されているターミナルへ向かった。
「日岡陵治さん」
後ろから男性の声が聞こえ、瞳だけ振り向くと、陵治の手が震えているのが分かった。
「中村貴史をご存じですね?お伺いしたいことがありまして。署までご同行お願いします」
陵治は瞳から手を離すと、見たこともない悲しそうな笑顔を浮かべた。
「先に行ってて…大丈夫だから」
「やだ!」
「ごめん…」
大勢の男性に囲まれて見えなくなっていく陵治の姿を、女性に囲まれた瞳は呆然と他人事のように見ていた。
持ち主が去っていったキャリーバッグを見て、倒れそうになった瞳を、女性たちが抱きかかえた。
ふたりは、別の方向からターミナルを去って行った。
Fin.
まるで
サスペンス劇みたいで
うっとりしました
続編を希望します
麻奈美 さん 2022年4月23日