草食系後輩は私にだけ狼になる (Page 3)
私を見つめながらゆっくりと咀嚼してみせる姿が、ちょっと色っぽくて。思わず視線を逸らしたけど、久松君はなぜか距離を詰めてきた。
「チョコレート、ありがとうございました」
「あ、う、うん」
距離が近い。後輩の久松君といえど、これは意識するからやめてほしい。
「伊藤さんは食べないんですか?」
「あ、後で食べるから…ちょっと離れてっ」
身を捩らせ後退りする私をデスクに追いやり、久松君はそこに手をつく。退路を塞がれた私の耳元で、彼がゆっくりと囁いた。
「嫌です」
「っ」
こんな久松君、私は知らない。もっとやる気がなさそうで、いつもつまらなそうで、淡々としてて、きっと女性関係だって受け身なんだろうって。
こんな、息のかかる距離で獲物を狙うライオンみたいな顔なんて、するはずない。
「伊藤さんって、肉食系のぐいぐいくる男が好きなんですよね?前に社食で話してるの、聞いたことがあります」
久松君は至近距離で、いつもよりずっと低い声色で問いかけてくる。
「そ、そうだけど」
「八城さんのことが好きなんですか?」
「八城先輩?別にまだ好きってわけじゃ」
しどろもどろに答えた私を見て、久松君は静かに目を細めた。
「まだ、ねぇ。気に入らないです、その言い方」
「意味分かんない!私が誰を好きになろうが久松君には関係な」
「俺、伊藤さんが好きです。だから俺のこと、好きになってください」
私が言い終える前に、久松君は真顔でとんでもないことを口にした。
「…嘘」
「こんな意味のない嘘は吐きませんけど?」
「だ、だって久松君そんな素振り全然なかったし、大体こんな強引なタイプじゃ…」
「俺も初めて知りましたよ。自分がこんなに、独占欲強い性格だって」
一瞬だった。一瞬で私の唇は彼に奪われ、温かい舌がねじ込まれると同時に甘い味が広がった。
「ん、んん…っ」
息ができなくて彼の肩をドンドンと叩けば、久松君は自身の唇の端をペロリと舐めた。
「チョコ、美味しかったですか?」
ダメだと、本能が悟った。
彼相手では、私に勝ち目はないと。
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