草食系後輩は私にだけ狼になる (Page 2)

次の日、私は社内の自販機前で二つ歳上の八城先輩と談笑していた。彼は今の私のときめきの相手で、高身長イケメンの爽やか男子。社内でも人気が高く女性との噂も絶えないけど、話し上手でつい惹かれてしまう。

「ホント可愛いよね伊藤さんって」

「またまた、上手いですね八城先輩は」

「マジだってマジ!ほら、今俺顔赤くない?」

「全然赤くないですから!」

お互い笑いながら、彼は軽く私の腕に触れる。チャラさ全開なのは承知なんだけど、こういう人が私のタイプだから仕方ない。

「冗談抜きで伊藤さん、今夜俺と」

「伊藤さん」

不意に背後から大きめの声で名前を呼ばれ、ビクッと反応する。久松君がこちらに近付き、私の手首を掴んだ。

「至急の用件なのでお願いします」

「えっ、うん!すいません、八城先輩」

「またね伊藤さん」

久松君に引っ張られながら、ヒラヒラと手を振る八城先輩に向かって私は慌てて頭を下げた。

*****

その日の夜、私はブスッと不機嫌な顔でひたすらにキーボードを叩く。半分照明が消された総務部室で、私は久松君と二人きり。

「まだ怒ってるんですか」

「怒ってないから、ちゃんと手を動かして!」

八城先輩と話している最中にいきなり私を連れ出したくせに、結局彼は「言いたいことを忘れた」と言ってそのまま去っていった。

なのに退社間際になって「急遽頼まれた決済があります」なんて。おかげでこうして残業する羽目になったわけだけど、事前にもっと確認しなかった私にも責任はあるから、仕方ない。

二人で手分けして何とか入力を終えファイルを保存すると、私はんんーっと伸びをした。

「終わったぁー!お疲れ様、久松君」

「すいませんでした」

「そう思ってる顔してないけど」

「そうですか?」

「あはは、冗談だよ」

笑いながら、ゴソゴソとカバンからチョコレートを取り出す。びっくりするくらい甘いのが、最近の私のお気に入りだ。

「はい、糖分補給」

「…」

「久松君?どうしたの?」

手の平にチョコレートを乗せたまま黙っている彼に、私は首を傾げる。かと思えば一瞬で包み紙を開けて、ポイッと口に放り込んだ。

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