帰省の先
窓の外に降る雪を眺め、帰省する電車に揺られる。彼への思いを乗せて走る電車、光るディスプレイに高鳴る胸――。久しぶりに会う彼と溶け合うように温めあう体。外の寒さも忘れてもつれあう二人。冬の寒さも忘れる大人のラブストーリー。
窓の外にしんしんと降る雪。
白い景色の中を走る電車に胸が躍る。
いつもよりも電車の進み具合は遅く感じる。
終着駅へ“早くついて”と思う気持ちと、“まだつかないで”と願う複雑な気持ちが入り混じる。
「…ふぅ」
今日に限って定時には上がれず残業だった。
気付いて時計を見た時には、予定の時刻はとうに過ぎていた。
パソコンの電源を落として、明るいネオンの中人ごみをかき分けて走った。
ヒールブーツのまま階段を駆け上がり、一番遅い列車に飛び乗った。
今、乗車しているのは私だけだ。
楽しみにしていた日。
今日が来るのをどれだけ待ち望んだかわからない。
今日のために努力してきた。すべてが完璧だ。時間以外は。
残業の悔しさがあってもまだ、今日は暖かい気持ちでいられる。
電車の旅路。帰路はまだまだ長い。
いつもなら一人で過ごす夜の時間が、今日だけは違うのだ。
新しいことではない。でも、楽しみにしていたこと。
冷えた手は、長い電車に揺られて温まった。
焦る気持ちと期待で心の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
手に持っていたディスプレイが光った。
『―――何時につく?』
おもわずにんまりとしてしまう。
言葉を打つ手が躍って震える。
思った以上に浮かれている自分に、安堵した。
*****
電車から降りて彼の胸の中へ飛び込む。
「待ってた」
冷えたコートの質感が、待ち時間を思わせて切なくなる。
きつく抱き返される感覚に懐かしさを感じる。何年経っても変わらない、飽きない。
彼の瞳の中に私が映っている。澄んだ空気の中、キラキラと光る彼の黒目。
長い睫毛が凍りそうなくらいに寒い。耳がちりちりと痛んだ。
静まり返った田舎の道、ザクザクと進む二人の足音だけが耳に響いて、息の白さにうっとりとした。
――――なんて、綺麗なんだろう。
二人きりの雪の中、冷たい空気から逃げたくて彼のポケットに手を入れた。
握り返される手の強さにギュッと心が掴まれ、思わず彼の横顔を見つめてはきゅっと唇を締めた。
進む足取りに近づく距離。心臓の音が高鳴る。
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