シックスナインは嫌だって! (Page 2)

(きた)

当然ホテルに入ったのだからこうなるとはわかっていた。夜景の見える高いホテル。大事にしてくれているのはわかっているから、悪い気はしない。

だが、秋芽は正直身構えている。この半年間彼と付き合って、思いもよらぬ自身の弱点に気が付いてしまった。「とりあえず付き合ってみた」彼にいいようにされている秋芽自身に苛立ちさえ覚えた。

「…えいっ」

秋芽は率先して、春樹の身体に飛び込んだ。

白いワイシャツを着た春樹に、秋芽は抱きつく。すると彼は秋芽の身体を抱きしめる。お互いにシャワーを浴びた後だから、身体があたたかい。

「本当に、君は可愛いね」
「…年下だからでしょうか?それとも見た目ですか?」
「両方だね。君が入社してから男はみんな君を狙ってたよ。何度も告白されてきたろ?」
「はい、たくさん」

秋芽は自信満々に頷いた。ずっと理系である秋芽は、自然と男が多い学生時代を送り、そして今も男性が7割以上の職場にいるからか声をかけられることが多かった。
だから平均くらいの顔立ちでも、男性をゲットする術を心得ていた。

「大好きだ」

彼は甘く囁き、秋芽の唇に口づけた。薄い唇が秋芽の唇に重なると、彼は背中を撫でる。普通のキスなのに、秋芽は少しだけ緊張していた。

「んっ…」

ほんの小さな痺れをすぐに感じ、秋芽は心中で「嫌だ」と思った。
春樹とキスをすると、すぐに反応してしまう自分が悔しい。ただ唇を重ねただけなのに、脚の間にある奥の疼きは隠しようがない。

「秋芽」
「ん…」

熱い舌が口の中に入り込んできて、絡めとられた。身体を押し倒そうと圧がかかってくることに気が付き、秋芽は抗いたかった。だが彼の舌が自らの舌を撫でる快感に、熱い息を吐くしかない。

(や、今日は…駄目…好きなようにはさせないんだから…)

「ふぅ…ん…」
「キスだけで君はこんなになっちゃうんだよね」
「ん…ちが…」
「初めてキスした時、とっても驚いたよ。何て感じやすい子なんだろうって」

唇から逃れるように顔を背けると、春樹は耳を啄みながらも甘く囁いてきた。その低い声にすら、秋芽の背筋は甘美な震えが走る。

(違う…ただこれは…春樹さんが上手いだけで…)

春樹は秋芽のことを「感じやすい」と言うが、今まで秋芽はこんな快感を知らなかった。歴代の彼氏にキスされても、むしろ秋芽の方が「キスが上手い」「前戯がエロい」と評価をされていたのに、今は秋芽が翻弄される側だ。

「あっ…やぁ…」

身体をベッドに押し倒され、秋芽は彼の舌が首筋を舐め上げるのを見て、ぞくりとした。彼のぎらりとした目が自分の様子を見ていることが、余計に体の熱を高める。

「こんなに感じやすい子と知って、僕は余計に君のことが…」
「んあ…ん…っ」

吐息のように掠れた声に、どきりとする。そして自分を貪るように晒された鎖骨を舐め、腰を抱く彼の手の動きに、焦りさえ覚えた。

(…違う。今日は…)

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