隠された存在 (Page 3)
ピンポーン
私は深呼吸してからインターホンを押す。
しばらくするとそのドアは開いた。
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
「お、お邪魔します…」
部屋の中に入った瞬間、少しスパイシーでウッディな香りが鼻をくすぐった。
彼の部屋は家具や家電が最低限なものしかなく、生活感というものがまるで感じられない。
高級な家には似合わず、どこか寂しい印象がある…。
「そういえば僕の名前をまだ教えていなかったね」
確かに初めて会った日に名前を聞いていなかった。
「俺の名前は康介だよ。よろしくね」
「私は明香里です…」
「とりあえずなにか飲み物を持ってくるね。麦茶とコーヒー、あとは紅茶があるんだけどどれがいいかな?」
「あ…じゃあ紅茶で…」
「わかった。そこのソファに座って待っててね」
「ありがとうございます」
私は黒いソファに腰を掛けて、康介さんが戻ってくるのを待つ。
数分後、2つのカップを持った康介さんが戻ってきた。
「どうぞ。熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます!」
それから私達は、慶介さんのことについて時間を忘れるくらい語り合った。
慶介さんが小さい頃どんな子だったのか、温厚な慶介さんの反抗期の頃の話…。
どれも私が知らない慶介さんのことばかりで新鮮だった。
逆に私は、私達の出会いや付き合ってからの思い出の話を康介さんに教えてあげた。
こうやって話をしていると、慶介さんはまだこの世に居るような気がしてしまう。
「でもまさか会っていない間にこんな可愛い人と結婚してたなんて。慶介が羨ましいよ」
「いや、そんな…!」
「俺が先に出会ってたら俺と結婚してたのかな?なんてね」
「ははは、どうでしょうね!」
すると急に康介さんは真剣な瞳で私のことを見つめてきた。
慶介さんとそっくりな顔で見つめられた私は、生きてた頃の慶介さんを思い出して涙が溢れてきてしまう。
「泣かないで…」
康介さんは私の涙を拭い、そのままキスをしてくる。
「や、やめて…!」
「俺を慶介だと思えばいいじゃん…。忘れられなくて辛いんでしょ?」
レビューを書く