目つきの悪いアイツが大嫌い

・作

久しぶりに会った目つきと口の悪い勝生は、消防士になったばかりの幼馴染。彼氏にフラれたばかりの私は勝生を相手にヤケ酒を飲んでいたら、突然“三歳の頃から私のことが好きだった”と告白されてしまう。おまけに今夜だけでもいいから抱かせろと誘われてつい一緒にホテルに。口が悪いくせに優しく慰めてくれる勝生の腕は、記憶にあるよりもずっと逞しくて…。

半年ぶりの実家までの道は夕暮れも過ぎて寒かった。

「げっ」

駅からの最初の角を曲がった途端、足が止まる。

「げって何だよ、カナ」

後ずさった私に、見上げるほどの上背の勝生(かつき)が口をひん曲げた。

「だって、まさか実家に帰った日にばったり会うとは。…っていうかあんた、確か全寮制の消防士学校に行ったんじゃなかったの?」

「いつの話だ。とっくに卒業しとるわ」
「じゃなにやってんの」

「資格試験のついでの年末帰省。お気楽な大学生のカナと一緒にすんな」

「はぁー?私だって春から立派な社会人ですぅ」

目つきがキツくてあけすけな物言いをする勝生は幼稚園からの幼なじみだけど、別に仲がいいわけじゃない。

そりゃちっちゃい頃は一緒に遊んだけど次第にそういうのも無くなり、中高も一緒だった腐れ縁でこうやってただズケズケ言い合うだけの関係だった。

「何かあんた、でかくなってない?」

「あー、訓練でめちゃくちゃ体使ってっからな。若いうちは技術大会目指さないといけねえから」
「何それ」

「消防士の大会。死ぬほどキツい」

「へー…ちゃんとやってんのねえ」

子供の頃は私よりちっちゃかったくせになぁ。

「お前は…彼氏と別れたのか」

「は?!え?!何で分かんの?」

「何でって、フラれる度にそうやって肉まん一気買いしてくんだろお前」

「うっ」

その通りだった。ぶら下げていたコンビニ袋をコソコソ背中に隠す。

「ほんっとデリカシー無くて目つき悪いあんたのこと、大っ嫌いだわ私」

「…で、何人目のだよ。その肉まん」

「うるさい!」

「貸せ」

「ちょっと?!何やってんの返してよ!」

「あちち…、お、これプレミアムビッグのやつじゃん。しかも二個」

「返して!」

「ほらよ」

「全部よ!…て、あっ!」

勝手に取り上げた袋から一個取り出したかと思うとむしゃむしゃ食べ出した勝生に、あっけに取られる。

「いいからそれ食って飲みに行こうぜ」

「はあ?」

口から湯気を出して私のプレミアムビッグ角煮まんを頬張りながら、勝生はスタスタ歩きだした。

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