本当の名前、教えて? (Page 3)
紗夜の脳裏には元カレとの嫌な思い出がよぎり、小さく震えていた。
「ん?大丈夫?」
近くのベンチまで、鉄二は紗夜を抱えて座らせた。
(どうしよ…怖い。動けない…忘れてたのに…)
「ちょっと待ってて」
鉄二は立ち上がると、近くの自販に行き戻って来ると、ペットボトルを開けて、紗夜が硬く握っている手の上に置こうとした。
紗夜の手はガタガタと震えていた。
「…ごめん」
鉄二はペットボトルの水を口に含んで、紗夜の顔を両手で優しく持って唇を重ね、少しずつ水を飲ませると、ゆっくり唇を離した。
紗夜の胸に水が落ちた。
(な?!…)
「はぁ…顔色は良くなったみたいだね…」
(いや…そんなことされたら…)
「あのさ…いいにくいんだけど…俺、記者なんだ。ごめん」
「…え?…」
紗夜は唇についた水を手で拭うと、立ち上がった。
(記者??もうダメだ…男の人騙した罰だ…さっきのキス…ダメ!帰ろう)
「こちらも詳しいことはいえないので、失礼します」
「ちょ、最後まで聞いて!…」
振り返った紗夜の目は涙で滲み、鉄二を睨みつけていた。
「はぁ…そんな顔で見ないでくれる?…年甲斐もなくドキドキしてるんだけど」
鉄二は紗夜の表情に動揺しながら腕を掴んで、強引にベンチに座らせた。
(ドキドキしてる?いや記者だって!どうしよう…さっきのキス…何、揺れてるの私。絶対ダメだって!!)
「あのさ…分かってないみたいだけど、俺、記者だって本当はいっちゃダメなのにいったの。意味分かる?」
膝の上で頬杖をついて紗夜の顔を見る鉄二の顔は、ほんのり紅かった。
「し、知りたくない。私帰りたい」
「んーごめん。ダメ」
鉄二は、笑顔で立ち上がると、紗夜のほうに手を伸ばした。
「行こう」
「もう帰…」
「俺、佐藤さんと会ってから…仕事どころじゃないんだよ…」
紗夜の手を骨張った手で優しく握ると、身体を引き寄せた。
「俺のこと信用出来ないのも分かるよ…ただ…少しだけ、俺に時間くれない?」
紗夜は、鉄二の胸の中でもがき少し身体を引き離すと、鉄二の顔が近付き軽くキスをして抱き締めた。
「…ねぇ?佐藤さん、本当の名前教えて?」
涙が零れ落ちそうな紗夜は、動けないまま鉄二に身体を預けていた。
「鉄二さん、もう止めて…お願い…」
(これ以上、私の心、乱さないで)
「何を止めればいいの?…」
「ダメなの…私…」
「簡単だよ?逃げればいいじゃん。何で逃げないの?まぁ…俺…引き留めるけど…」
紅い顔をした鉄二が、紗夜の顔に近付いた。
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