本当の名前、教えて? (Page 2)
リネンのセットアップを着て、鉄二との待ち合わせ場所に向かう紗夜の足が止まった。
(え?逆ナンされてる?)
待ち合わせ場所の目印になっている大きなモニュメントで、鉄二は女性に手を引っ張られて、断っているのが見えた。
紗夜はモニュメントの後ろに回って様子を伺った。
「申し訳ないですが、人を待っているので、失礼します」
「ちょっとくらい、いいじゃないですか!」
(あっヤバイ!見つかる…)
「佐藤さん?」
鉄二に見つかった紗夜は笑顔を浮かべた。
女性は紗夜を睨みつけて、ヒールを鳴らしながら去って行った。
「初めまして、佐藤さん」
爽やかな笑顔とは違い、胸に響く声。逆ナンした女性が睨む気持ちも分かる。
「お邪魔じゃなかったですか?」
「私も知らない方です。私が待っていたのは、佐藤さんですから」
(おー言い切ったよ、鉄二さん)
「行きましょう」
紗夜の背中にさりげなく手を置いて、その場から離れた。
「鉄二さん、背が高いから話していると肩が凝りますね」
鉄二は、車道側を歩いていた紗夜の手を取って、歩く場所を変えた。
(やることが嫌味じゃないなぁ…)
「背ばかり高くて…何の取柄もないですよ」
ランチへ行く間、色んな話をしたふたり。
彼女の影は微塵も感じられず、浮気や遊びで登録したわけではないのが分かった。
「わざわざ時間を取っていただいて、ありがとうございます」
紗夜は自然と口から言葉が出ていた。これが鉄二の魅力なんだな、と感じ入った。
(この人の彼女になる人…羨ましいな…)
そう思っている自分に驚きながら、鉄二の顔を見上げた。
鉄二は、紗夜の手を取ると、
「私の方こそ。お礼させて下さい」
そういって、カフェのドアを開けた。
*****
公園を歩きましょう、と誘ったのは紗夜の方だ。
(私なんかに引っ掛かって申し訳ないなぁ…)
鉄二の話を聞きながら、紗夜の良心がチクチクと痛んだ。
「君、サクラでしょう?」
鉄二が小さく笑いながら紗夜の耳元で囁いた。
驚いた紗夜を、鉄二は少し微笑みながら手を伸ばして、身体を引き寄せた。
鉄二の香水の匂いがする胸の中で、紗夜は硬直していた。
「佐藤さんの会社にいうとか、そんなんじゃないから…」
「…な、何が目的なんですか?」
鉄二は紗夜の顔を覗き込んで、ニコッと笑った。
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