本当の名前、教えて?
男性不信の紗夜は、出会い系のサイトでサクラの仕事をしている。そんな紗夜は年上のイケメンの鉄二が気になり昼間会うことに。公園を散歩しながら話していると、紗夜の耳元で身体に響く声で鉄二が囁いた。「君サクラでしょう?」鉄二は紗夜の手を引っ張って…。
紗夜は、PCの前でヘッドセットをしてカタカタとキーボードの上で指を走らせていた。
『kさんの顔見たいなー』『おんくんって意外と男っぽいよね』『ねぇ…私のこと誘ってるの?』
大きな溜め息をつくと、デスクの上に転がる目薬を差した。
ピコンと音が鳴る。新しいカモの音。
(この写真、釣れるなー…え?)
『初めまして』
紗夜の笑い声が狭いオフィスに響き、先輩に睨まれる。
(真面目ー。え?30歳?イケメン!慣れてそうだなー)
『初めまして、佐藤です。よろしくお願いします』
真面目なメッセージを送ってきた鉄二という男性に合わせた文章を打ち込んだ。
『こういうサイト、初めてで…』
(今から騙されるんだよ?鉄二さん)
『メッセージありがとうございます!私も初めてで…鉄二さん、彼女いそうなのに』
紗夜の指がカタカタとキーボードの上を踊る。
(鉄二さん秒で返信…)
『もう3年以上いません。佐藤さんは?』
紗夜は他の人たちにメッセージを送りながら、鉄二のことが気になっていた。
『今忙しいですか?』
(会えませんか?来そうだなー)
『すいません料理中で。私は1年以上前に別れました』
紗夜は5年前に別れた元カレが原因で男性不信になっている。
『忙しそうですね。失礼しました』
(料理に食いつかないんだー)
その日は鉄二からのメッセージはなかった。
*****
(あーもう鉄二さん返信ない。他行ったのかー残念だな)
何人もの男性からのメッセージをやり取りし信頼を得て、上司から言われていることをさりげなく聞き出して、上手にフェイドアウトする。
そんな、いつもの日常に戻ったと思ったある日。
『佐藤さんの声が聞きたい』
(え?鉄二さん?…何なに?)
紗夜は急いでペットボトルを取って喉を潤した。
(エロチャットか…)
『私も』
返信するとすぐに鉄二の声が聞こえた。
「佐藤さん?」
「はい。鉄二さんって、声もカッコいいですね」
鉄二の声は、顔とギャップがあり、紗夜の言葉に嘘はなかった。
「今、お話しして大丈夫ですか?」
「はい。今、出先なので」
「急に声が聞きたいなんて…。返信出来ず、すいませんでした。仕事が急にバタバタしてしまって」
(ハイハイ。ま、寝落ちよりマシかな?)
「私のことイヤだったのかと思って…鉄二さんの声聞きたかったから、嬉しかったです」
「私も、佐藤さんの可愛い声が聞けて、嬉しいです」
「声、褒められたの初めて。恥ずかしいな…」
(声なのかな?鉄二さん落ち着くなー。ちょっと試そうかな…)
「あの私…口で言うの恥ずかしいから…」
『鉄二さんに会いたいです』
相手をしている男性とは絶対会ってはいけないので、紗夜は視界に上司が入ってこないか気を配りながらキーボードを打った。
「私も佐藤さんに会いたいです。時間空けますので言って下さい」
『明日のお昼はどうですか?』
「ランチしましょう」
紗夜は場所を暗記して鉄二と話しを終えると、椅子の上で伸びをしながら明日の服のことを考えていた。
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