非常ドアの向こう側で (Page 2)

直樹はポケットからキーを取り出して非常ドアを開けると、ふたりは仕事の話をしながらビルの中に戻り、別々のエレベーターに乗った。

「お世話になっております、浜田様」

取引先の谷口秀人が美羽の隣に来て声をかけた。

「お世話になっております、谷口様。何階ですか?」

すぐにエレベーターは止まり人がぞろぞろおりて、美羽と谷口だけになった。

谷口の秀逸な仕事ぶりに多くを学んでいた美羽は近付いて話しかけようとすると、谷口は無愛想とも取れるいつもの表情でタブレットを取り出した。

「簡単で構いません。ご意見をお伺いしてよろしいですか?」

美羽は目の前に差し出されたタブレットを覗き込み、思わず後ずさりした。

『な、直樹、イク、イクぅ、ぁあんんんん』

「どう…思われます?」

谷口は冷たく微笑みながら、ふらついた美羽の背中に手を伸ばした。

「大丈夫ですか?お疲れでしょう?」

『はぁあ、あぁ、美羽、ダメ、俺…イ、イク』

「お相手…隅田さん?ですよね」

谷口は片手でタブレットをバッグに入れると、美羽の背中に回した手に力を込めた。

「13時30分、ここで待っています」

*****

エレベーターのドアが開き、美羽は部署に戻りながらスマホを取り出すと、直樹の連絡先を表示した画面は、すぐ真っ暗になった。

美羽はデスクから直樹の部署に内線電話を掛けたが、会議中とのことだった。決心してショルダーバッグを持つ。

「ちょっと出ます」

美羽は13時15分を過ぎている時計を見ながらエレベーターに向かった。

6階の非常ドアまで谷口の姿は見えず、美羽はドアノブを回すとロックされていた。

安堵して立ち去ろうをすると、背後で非常ドアが開いた。

「お待ちしていました」

谷口は美羽の手を握り外に連れ出すと、片方の長い腕を伸ばし非常ドアを締めた。

ドアを閉めた手を下ろすと、持っていた大きな袋からトレンチコートを取り出し、美羽の肩に掛けた。

「ちょっと、何なんですか一体?」

美羽は肩をズラしてコートを落とすと、谷口はコートを掛け直した。

「大きな声を出すのは、よくないですよ」

「な、何ですか、このコート…」

「また誰かに見られるかもしれませんよ?」

逃げようとした美羽の唇を強引に奪い、谷口は肩に掛けたコートのボタンを、1つずつ留めた。

「浜田さん、まだ濡れていますか?」

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