雇用主は、突然に (Page 2)
黒光りの高級な車に乗せられて、辿り着いたのは、豪華なタワーマンションだった。
「京子さん。あそこの裏口のエレベーターを使って、30階に上がってください。もし何かお客様に不都合があればご連絡いただけることになっているので、では、頑張ってください」
彼に言われた通りに最上階の30階にたどり着くと、今まで見た高級マンションとは違う格の高さを感じた。
どうやらこのフロアには1室しかないようで、立派な観葉植物の置かれた奥に、『3001』と書かれた扉が見える。
ピンポーン
インターホンを押すと、ライトが光り、開錠される音がした。
緊張で体が震えるのが自分でもわかる。
ガチャリ…
「あ、初めまして…今日からSKYに所属することになりました、京子と申します。よろしくお願いします」
開いたドアに反射的に、私は顔も見ずに頭を下げて挨拶をした。
お辞儀をした先に、スリッパを履く大きな足が見える。
「ははは、すごい緊張しているね、ひとまず入って」
恐る恐る顔を上げると、高身長でラフなスウェット姿の髭を生やした白髪混じりの男性が立っていた。
男性らしい大きな手で私の肩にそっと手を添えると、ゆっくりとドアを閉める。
「まだ研修も受けてないんだってね?今日人が全然いないみたいで、誰でもいいって言っちゃったんだけどさ」
誰でもいい、その言葉がチクリと胸に刺さる。
風俗店に勤めることになった以上それは覚悟していたはずなのに、いざ目の前で言葉を浴びると、何だか自分の追い込まれた状況と相まって、私は急に気が遠くなるのを感じた。
そうだ、これは誰がやってもいいんだ。
だったら、何を傷つく必要があるの?思い切り、なるようになったらいいんだ。
吹っ切れたように顔を上げると、自分よりも随分と歳上に見える彼に微笑んだ。
「仕事が無くて、それで決心したんです。経験豊富ではないのですが、頑張ります。とはいえ、もしお気に召さなければすぐに別の者をご用意いたしますので」
「…いい返事だね。あそこの通路の右奥がシャワールームだから、そこでシャワーを浴びてくれる?隣の部屋が寝室だから、そこで私は待っているから。下着も脱いで、バスローブを着て、入ってきて」
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