素直じゃない私の素直な身体
昔から素直に欲求を口にできない私。しかし彼は、私の表情や反応から私の求めることを的確に察してくれる。だから私は今日も、はちみつのように甘い彼との夜に身をゆだねる。私はきっと、彼から離れることはできないだろう。
「うぅ…や…」
「いやなの?ゆず」
昔から素直じゃない自覚はあった。ほしいものをほしいと言えなかったり、喜びを正直に表せなかったり。
性行為において、お互いにしてほしいことやしたいことをきちんと伝えた方がいいってのはなんとなくわかる。
わかっていても、どうしても気恥ずかしさや遠慮が邪魔をしてしまうのだ。
そのせいで、今までうまくいかないことが多々あった。
素直になれないくせに、私の身体は一度や二度達しただけでは満足できない。
そのせいで、昼間にデートで当時付き合っていた相手と行為をしたというのに、ものたりなくてその晩自分の身体を慰めることもあった。
しかし言葉で表すのが苦手な分、多少の我慢は必要だと自分に言い聞かせていた。
「ナカ、すごいことになってるね。ぐしゃぐしゃで指がすんなり入るよ」
「お願い…いわないで」
「いわないで?…興奮するからもっといって、の間違いじゃないの?」
「ひ、ぁ……」
「こういうこといわれるの大好きだもんね、ゆず」
それ以上いわないで。私はいやいやと頭を振った。
なのに、彼は口元を緩ませたまま言葉を紡ぎ、おかまいなしに奥へ奥へ指先を滑らせる。
彼は、相手の表情や声音から感情を察する能力にとても長けていた。
私がひた隠しにしている心の奥底にある熱を、彼はいともたやすく汲みとってしまうのだ。
だから、私がどれだけ羞恥で口先だけの拒否を重ねようと、彼にはすべてもっともっととねだっているようにしか聞こえていない。
「ゆずは素直じゃないよね。もっとほしいくせにやめてっていう」
そういって彼は私の耳へ何度も口づける。甘く優しい快感に、頭がくらくらする。
「でも、身体はすごく素直。ココとかも、指に絡みついてもっと触ってやめないでってずっといってるよ」
「や、ぁ……んんっ!」
彼の、男の人の長い指でとろけたナカをかき混ぜられると、私は簡単に達してしまった。
そんな私を見て、彼は小さく笑った。
「もうイッちゃったの?相変わらずはやいなあ」
楽しそうに笑う彼。私は快感の余韻に浸りながら、そんな彼を眺める。軽口に言葉を返す余裕なんてなかった。
私のナカは、その間も彼の指をそっと締めつける。
まるで、まだ抜かないで、とでもいうように。
「ね、これでおしまいでいいの?」
いたずらっぽい笑みを浮かべて私の頬を撫でる。
悩む間なんてない。彼の問いへの返事は決まっていた。
「やめ、ないで…」
素直じゃない私は、快感に身を任せてから初めて、ほんの少しだけ素直になれるのだった。
Fin.
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