犬系男子の飼い方
ある夜、雨が止むまでと思い迷子の大型犬を家に上げた。それ以来、懐いてしまったようで、時々家にやってきては、餌をねだる。まるでゴールデンレトリバーのような彼の名前しか知らないのに、どんどん溺れていく……。
「みさきさん、おかえりなさい」
「るいくん?来てたんだ」
自宅のエントランスを開けようとして、見知った金髪が目に入っていたから気付いていた。
さも驚いた振りをしてオートロックを外すと、ゴールデンレトリバーみたいな彼はそれが当たり前であるかのように私の横に並んで、一緒に自動ドアを潜る。
名前しか知らない彼が家に来るようになって、もう何か月経っただろう。
寒い雨の夜に傘もささずに歩いている彼を見て、思わず声を掛けた自分は少し危機管理能力が低かったと反省している。
けれどるいくんは乱暴なことをするでも、家の中を荒らすでもなく、私の言葉通りにお風呂に入って身体を温め、雨が止むとまるで尻尾を振るような笑顔で去って行った。
それ以来、雨の夜になるとこうして家の前で待っていることが多くなった。
「先にご飯にしようか」
「じゃあ今日は僕が作りますよ」
我が物顔でエプロンに手を伸ばし、冷蔵庫の中身を物色する。
るいくんの作る料理はどれも美味しいから、断る理由なんてない。
規則正しい音がキッチンに響き始めたのを聴きながら、私はお風呂掃除を始めた。
綺麗になれば、蛇口を捻っておしまい。
るいくんは入浴剤の類が嫌いだから、このまま。
「みさきさん、ご飯できましたよ」
「ありがとう、いまいく」
単身用の小さなダイニングチェアに二人分の料理を並べて、顔を合わせて食事をする。
私たちの関係は恋人同士ではないのに、まるで長年連れ添った恋人みたいにしっくりくる。
今日のメニューは生姜焼き。
食べ終わった頃、ちょうど給湯器がお湯はり完了を知らせた。
それが合図。
さっきまで人懐こい笑みを浮かべていたるいくんの瞳が、一瞬ぎらりと光ったのを見逃さなかった。
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