魔法少女(中の人・社畜)は敵幹部のえっちな魔法で闇落ちしちゃいました
表の世界では会社員、裏の顔は正義の変身魔法少女な崎島ちはねが目を覚ますと、薄暗い部屋で両手足を拘束されていた。現れたのは宿敵である闇の魔導士、ロカイユ。意識を失っている間に変身ペンダントを奪われ、えっちな魔法をかけられたちはねはピンチに。しかし、敵であるはずのロカイユは優しい言葉をかけてきて…?
崎島ちはねが目を覚ますと、全く知らない薄暗い部屋で一人がけのソファに拘束されていることに気づいた。
「…え、嘘、何これ!?」
両腕はアームレストに、両脚はソファの脚に柔らかな布で結び付けられている。痛みやしびれはないが、結び目が硬くほどくことができない。
少しでも拘束がゆるまないかと力を込めながら、ちはねはこうなる前の自分の行動を必死で思い出す。
仕事が立て込んで、終電に乗った。いつもならそこそこ人が乗っているはずの車内がガラガラで。椅子に座れて、どうせ明日も始発出勤だから少しでも睡眠時間を確保したくて、目を閉じて…。
「感心しませんねえ」
声が響いた。うつむいていたちはねは、勢いよく声の方に顔を向ける。
暗い部屋に開かれたドアの形で切り取られた光が差し込む。立っていたのは長身痩躯の男だった。
黒い軍服めいたジャケットとパンツの上下に乗馬ブーツという隙のない服装で、柔らかくウェーブした黒髪をオールバックになでつけた彼は、整った顔をゆがめて微笑む。
「女性の夜歩きも、電車内での居眠りも。…さらってくれと言うようなものでは?」
銀縁の眼鏡の向こうで輝く目は、血のような赤色をしていた。
「誰?」
ちはねは相手を鋭く睨みつけて、問う。
「お芝居が下手ですね。知らない人間に向ける表情ではありませんよ。ねえ、崎島ちはねさん。…否、銀百合の魔法少女、リス・アルジャン」
「…歪み真珠の魔導士、ロカイユ…」
「ああ、覚えてくださっていて嬉しいです、心の底から」
うっとりと陶酔したような表情を浮かべた男の名はロカイユ。世界平和を脅かす闇の魔術師たちの組織の上位幹部であり――ちはねが変身した正義の魔法少女、リス・アルジャンの宿敵のひとりだった。
しかしこの男、幾度も彼女の前に現れては毎回悪役らしく負けを喫し続けている。先日も惨敗して、悪役らしい捨て台詞と高笑いと共に闇の中に消えていったはずなのだが…。
「この間の仕返しのつもり?ぼっこぼこにしてあげたのに、まだ足りなかったわけ?」
「仕返しだなんてそんな」
くすくすと笑ったロカイユは、ちはねのそばに歩み寄る。そのまま彼は、ちはねのスーツの胸元に人差し指を引っ掛けると、
「…もっと素敵なことですよ」
指先に生じさせた魔力を刃にして、一気に下まで引き裂いた。
細やかな設定と丁寧な心理描写めちゃくちゃいいです!
もちもち さん 2022年6月14日