鉄仮面上司との主従関係 (Page 2)
彼と出会ったのは3ヶ月前のこと。
前に勤めていた大手製薬会社で7年ほど働き続け30歳目前となり、新たなことに挑戦したいと考え、転職をした。
前職と違って能力主義のこの会社は、上司部下が分け隔てなく自由闊達(かったつ)に仕事ができるところが居心地がよい。
そんなフレンドリーな会社の中で、少し異質で近寄り難いオーラを放っていたのが経理部役員の彼、波田透(はたとおる)だ。
彼は会社の中では「鉄仮面」というあだ名を付けられている。その名の通り、全く隙を見せずほぼ笑わないのが有名だから。
40歳にもなるというものの、妻子もおらずに独身を貫いているところも謎めいているが、プライベートの話を社内ですることはほぼないそうだ。
3ヶ月前に中途入社した私は、最初の頃、資料室で色々な過去のデータを探すことが多々あった。
早く仕事に追いつきたい気持ちが先走り、就業時間を過ぎた後にも、この資料室に篭り、ひっそりと置かれた椅子に腰掛け資料を読み漁っていたのだ。
そんな時に、この資料室でよく鉢合わせることが多かったのが波田だ。
私が意識をしてしまったからか、彼を目で追うことが多くなり、ある日自然と声をかけていた。
「あの」
「…?」
彼は顔色を全く変えずに、私を見下ろす。
スラリと伸びた身長から、私は逆に彼を自然と見上げる形になる。
胸の鼓動が高鳴り、彼のこの眼の色、そしてこの一切崩れない表情をどうにかして変えたい、とその時衝動的に思ったのだ。
その結果、口から出た台詞は自分の予想を遥かに超えていて。
「私を抱いてみませんか?」
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