出会い系アプリに初挑戦したタピオカ大好きアラフォー女子の体験記 (Page 2)
初めはイベントショップの社長と自称しており、真面目そうなプロフィール写真に、おちゃらけたコメント。
怪しい匂いがプンプンした。
しかし、メールをやりとりするうちにその話術に魅了されてしまった。
コーヒーと紅茶、どっちがおしゃれか?といった他愛ない話もあれば、女性がエッチしたいとき、こんなサインを出している、といった洋子もドキッとするような話。
職場で嫌な上司のいなし方、譜面が読めなくてもピアノを弾く方法などなど、ひきだしがたくさんあって飽きないのだった。
イベントショップは土日はほとんど休めないから、洋子とは休みが合わない。
それなら、そのイベントに遊びに来ればいいということになって、洋子は土曜の午後遅くに会場に出掛けた。
到着してみると、想像していた駅のキオスクのようなショップではなく、運動会で使うような四脚テントの仮店舗。
その中でポテトフライや骨付きチキンを揚げて売るという、要するに縁日によくある露店商だった。
洋子は驚きを隠せないまま、中で立ち働いている雄一に声を掛けた。
「びっくりしたでしょ?」
雄一はイタズラが成功した子どものようにずるく笑った。
「今日はこれから雨の予報だから、お客さんが少なくて暇だよ」
「イベントショップって露店のことなのね。ちょっとびっくりしちゃった」
「露店が一番利益率が高いんだよ。家賃とかの固定費がほとんどかからないからね」
周りの露店の働き手はチンピラ風の若者ばかりだが、雄一は普通のサラリーマンが地味に休日を過ごしているといった風体だ。
それでいて、お客さんやチンピラたちとも和気あいあいと会話している。
なんとも不思議な人物だ。
洋子は雄一の大雑把な調理の手際やイベント会場の様子を観察しながら過ごした。
確かにその日は客足が悪いらしく周りの店舗の人たちも暇そうにスマホをいじったり、タバコを吸ったりしていた。
イベントといっても、生け花や盆栽の野外展示に無名の演歌歌手のステージショーがくっついているという、狙いも客層もはっきりしない企画であった。
洋子が着いてから1時間もしないうちにイベントが終了し、雄一は早々に店仕舞いの作業を始めた。
「中で掛けて食べて」
作業しながら、まだ温かいポテトと最近始めたというタピオカドリンクを洋子に差し出した。
「ありがとう。いただきます」
洋子はテントの中の丸イスに座り、素直に食べてみた。
「あんまりおいしくないでしょ?」
確かに特別美味なわけではないが、かといってマズいというほどでもない。
「いや、普通においしいよ。特にタピオカドリンクは大好物だし」
「ははは、これは全部業務用スーパーとかで売ってる安い冷凍食品だよ。タピオカだって解凍して、ペットボトルのミルクティーに入れただけ。原価は100円もしないよ」
「これ二品で千円で売れるなら、確かにすごい利益率ね」
「料理の腕がなくてもできる商売だし、イベント会場だと多少値段が高くても売れるから、この仕事は悪くないと思うよ。土日は休めないし、天気にも左右されるからいいことばかりじゃないけどね」
会話しながらも、雄一はテキパキと動き回り、テント内はきれいに整頓され、出入口も横幕シートでしっかり囲われていた。
外から見えない一種の密室状態だ。
作業が終わると雄一は、売り上げの計算を始めた。
地面に厚手のレジャーシートを敷き、正座してクーラーボックスを机代わりに電卓を叩く姿が微笑ましかった。
暇と言ってもそれなりに儲けはあったらしく、手提げ金庫から千円札の束がはみ出している。
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