優しいオネェは甘くてエッチで絶倫

・作

恋愛が上手くいかずフラッと立ち寄った居酒屋で呑んだくれている明日花に優しく喝を入れてくれたのは、自分より綺麗な顔立ちのオネェ・ナツ。面倒見のいいナツに懐いた明日花はそれ以来なんでも打ち明けるように。てっきりナツの恋愛対象は男だと思っていた明日花だけど、実はそうではなかったということをある夜身をもって知ることになる。

私は完全に、人生における自分の一番大切な時間を無駄にした。だって、二十三から二十八だよ?一番お肌ピッチピチでキラキラ輝いてるであろう五年。

私はこの五年を、愚かにもたった一人の男に捧げてしまったんだ。今思えば、どこが好きだったのかすら思い出せない。

「くそが…っ」

小さな居酒屋のカウンターの隅に座り、九割中身の減った大サイズのビールジョッキをドン!と乱暴に置いて憎々しげに呟いた。

「俺たち合わないから別れよう」

は?何言っちゃってんの?五年も付き合ってて、合わないことに今気付いたの?バカなの?

いやバカなんだよね。私も見るってわかってるSNSに平気で結婚報告とか載せちゃうんだから。別れてまだ一ヶ月も経ってないのに。しかも横に写ってる女、私の友達じゃん。二人揃って頭おかしいのか。バカか。

「バカなのは私か…」

手にしていたスマホを伏せて置くと、ビールジョッキ相手に溜息を吐く。こんな男だって気付かずに尽くしてきたことも、仲のいい友達だと思ってなんでも話してきたことも、全部全部私がバカだったんだ。

ていうか、バカにされてるんだ私。二人ともに、大切にされてなかった。しかもSNS見るまで気付かないとかアホすぎて笑えない。

「すいません、生おかわり!あとだし巻き玉子も!」

呑まなきゃやってらんない。最早ビールも料理も味なんかわかんないけど、とにかく呑みたいし食べたい。

「それくらいにしときなさいよ、アンタ」

ふいに横から声をかけられて、そっちに目を向ける。今までに聞いたことないような、中性的で不思議な声だ。

「あ…」

一目見て、なんて綺麗な人だろうと思った。サラサラの黒髪に、キュッと引き締まった小さな顔。しっかりと引かれたアイラインが、吊り上がった猫目によく映えてる。

スラッと背の高いボディラインを惜しみなく強調した黒のロングタイトワンピースも、全然違和感なくハマってるからすごい。

「お酒にもお料理にも失礼でしょ?」

この人、女じゃない。私より綺麗で色気もあっていい匂い…でも直感でそう思った。思ったら余計に、ドキドキする。

「あ、あの…」

「ごめんなさいね、急に声かけて。あんまりやさぐれてるもんだから見てらんなくって」

「や、やさぐれてる…」

なんか急に恥ずかしくなってきた。

「私でよければ話聞くけど」

「え…」

「それ以上飲んだら倒れちゃうわよ。それに、なーんにも知らない赤の他人の方が案外話しやすかったりするじゃない?」

「そ、そうなんですかね?」

その人はいつの間にか私の隣の席に座って頬杖をつきながら、妖艶に笑ってみせる。

「私ナツよ。気付いてると思うけど女装が趣味なの」

自ら言っちゃうスタイルなのね。まぁ気遣わなくて済むから楽か。

「こういうぶっ飛んだ人種に全部ぶちまけちゃいなさい」

「すごく綺麗です!ホントに!」

身を乗り出して言うと、ナツさんは一瞬目を丸くしてから嬉しそうに笑う。

「ありがと」

笑うとキツい印象の目元がフニャッと下がって、思わずドキンと心臓が跳ねた。

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